「自由自在」

 


帝光中学校にはいくつか有名な噂があった。もちろん中には根も葉もないものも年相応にあったのだけど、一番早く、広く伝わるのは男子バスケ部の出来事。
そして、それにまつわるいくつかの話の中で、最も有名なものは。

「見ろよ、また赤司が一位だ」
「満点じゃん。同じ人間かよマジで」
「部活ももう一軍レギュラーなんでしょ? 赤司様々って感じ」

赤司征十郎。入試から、どの教科の成績でも常に一位をキープし続け、所属のバスケ部でも評価の高い男子生徒。
それから。

「……で、またこっちは補習に名前入ってんな」
「いくら別の人間ったって、血が繋がっててこうも違うもんかよ」
「才能全部持ってかれたんだろ。俺なら生きるの嫌になるぜ」
「似てんのって顔だけだよなあ」

彼の双子の姉、赤司征華。ものの見事に対照的に、いつもどの教科も最下位争いに名前を連ねている女子生徒。

正反対で、全く似ていない双子。そう言われるのはまだ優しい方で。声を大にして言う輩は流石に居なかったが、優秀な弟と落ちこぼれた姉を比べては、弟に完璧のレッテルを貼り、姉には無能のレッテルを貼る。

それは学校だけではなく、彼ら姉弟の親戚や、家庭的に関係を持つ周囲の大人達は誰もが口を揃えてそう言った。

けれど、当事者である赤司はいつも、それらしい事を耳にするたび、目の当たりにするたびに。

(……馬鹿馬鹿しい)

そう思わずには居られなかった。

「だが事実いつも底辺争いをしているだろう」
「そうだな。わざと参加しているんだよ」
「……手を抜いている、と?」
「いや……それは少し違うな」

ぱちん、ぱちん、と。
二人が将棋を指す音をBGMに、赤司と緑間は征華について話をしていた。

要領を得ない赤司の言葉に首を傾げながら、緑間は角行を動かした。

「単純に手を抜けば誰かが気付く。出来る奴が出来ないふりをはするのは実は容易じゃないんだよ」
「能ある鷹は爪を隠す、と言うことか?」
「もっと極端だ。鋭い爪など無いように見せびらかすんだよ。不自然に、わざとらしくなどならないように常に」
「……やはりわからん。身内だからと買い被っているのではないのか」

訝しげな表情でそう言った緑間に赤司は苦笑して。
例えばね、と言いながら桂馬を摘む。

「姉さんもボードゲームは好きみたいでね。誘えば付き合ってくれるんだけど」
「……お前と?」
「勿論。でも、どうしてもあの人には勝てないんだよ」
「……!?」

桂馬を進めた赤司が、王手、と小さく言った。
盤上の戦況を理解した緑間が投了だ、と呟いたのに小さく笑って、お前もそのうち判るさ、とのたまった。


 
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