「不安を取り除いてください」




「も〜赤司くんったら、テツくんに全部聞いちゃったんだから! 本当はね、お誕生日にしようと思ってたんだけど、今年のそれって遠いし。でね、調べてみたら、丁度今頃が時期の種類があったから送っちゃった! 私からの荷物が届いたら是非征華さんと一緒に見てね! って事で、またね〜」

もしもし、の一言も言わせてもらえないまま矢継ぎ早に喋り倒して、結局桃井は俺の返答を何一つ聞くことなく通話を終えてしまった(なんだったんだ……?)。

通話終了、という画面を示す携帯を呆然と見下ろしていたら。

「征十郎」
「ん、はい」

部屋の外からのノックと呼び掛けに、携帯をポケットに押し込みながら応えた。
開けて、と言う声にその通りに扉を開く、と。

「……なに、それ」

何故か鉢植えを抱えた征華に、思わず間の抜けた反応をしてしまった。

「私と征十郎宛に、桃井さんからですって。今庭に出てたら、届いたの」
「桃井から?」

ふと、たった今の通話で聞いた内容を思い出す。彼女が送っちゃった、という荷物とは、これのことなのだろうか。
しかしこの蕾の膨れた鉢植えの花を、いったいどうしろと言うのだろう。征華と見たからと言って、いったいなにがあるんだと内心首を傾げていると、征華がポケットからメッセージカードを取り出した。

「? それは?」
「この鉢植えについていたの。ええと……いち、に、に、ぜろ? 千二百二十かしら。それと」

きっと、その為に2人で生まれてきたんだよ。

4桁の数字とその一文だけが、少し丸くて小さい、けれど綺麗な字で書かれていた。
そしてふと見た鉢植えの中、土に刺さった小さな品種を示すタグを見て気付いた。

「12月20日」
「え?」
「姉さん、この花は、俺たちの誕生花だ」

彼女らしい心遣いだと思った。実に少女らしい方法で、そして何より、相変わらず驚異的な情報網と勘。

「……姉さん。一つ聞いてもらえますか」
「どうしたの?」
「俺、ずっと怖かった事があるんです。……姉さんに、憎まれているんじゃないかって。俺が、居なければって、思ってるんじゃないかって」
「な……っあ、あのねぇ……!」

きゅうっとしまる喉から絞り出した言葉に、珍しく姉が声を荒げたかと思うと。

ピタリと止まって、大きく深呼吸を、ひとつ。
そして。

「私も、思うことがあった。あなたに、恨まれているものと思ってた。私の方こそ、あなたに、私がいながら、と。いっそ居なければ、と思われているのではないのかって」
「……少なくとも俺は、そんな事は思っていないよ。そんなこと、思う余地もなかった」
「……うん。私も同じ。なにせ、大事な弟ですもの」

俺の手をそっと握って笑う姉を見て、胸につかえていたものが、すっと消えた。

なんてことだ。10年近くずっと蟠っていたものが、こんなにあっさりと無くなってしまうなんて。
方法はこんなにも、簡単なことだったなんて。

そもそも、疑う余地など無かったのだ。幼い頃、もう記憶にも残らない頃。今は亡い母がそれを教えてくれていた。
生まれる前から、そして、生まれた後も。2人は手を取り合った、片割れなのだから。


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