「才能」




WCも終わり、年も明けた。
三学期が始まり、どの部活も三年の姿はなく、来年度への新体制に向けた基礎作りが行われていた。

そんな洛山高校で、実渕は少々渋い表情をしていた。

「どしたのレオ姉。すげー顔」
「……あのね征ちゃん」
「ん?」
「あなたの"出来損ない"のお姉さんは、何があったの?」

洛山高校でもっぱら噂になっているのは、出来損ないで落ちこぼれだった赤司征華の、華麗なる下剋上劇だった。

まず、休み明けの実力テストからである。
結果が張り出されるわけだが、今まで不動の一位であった赤司征十郎を押し退けて首席にのし上がった。最下位争いだった彼女がだ。
誰もがカンニングや不正を疑った。だから、複数の教師からの徹底監視のもとに再試を行ったが、カンニングの素振りなどなく見事に2度目の満点を叩き出した。

これまでの無気力などまるでなかった事のように、彼女はやる事なす事全てにおいて首位を独占した。これまでの、赤司のように。

気にしてない、というか、興味が無いのなんて根武谷くらいのもので、言い出した実渕だけではなく、彼女と言葉を交わしたことがある葉山も、それとなしには気にしていた。

が、話を聞いた赤司はそのことか、とくすりと小さく笑って。

「俺と同じだ。元に戻っただけだよ」

と、のたまった。

「元に、戻った?」
「ああ。赤司征華という人は、元々ああ言う人だったんだ。だけど……何て言うのかな。父に対しておとなしくしているのを、辞めたらしい」
「ふうん……?」
「まあ、もとより優れた人だ。自慢の姉だよ」
「赤司より、なあ……あっ」
「ん?」

赤司の言葉を聞いて、葉山は思い出した。
以前征華と言葉を交わした時のことである。
あの下手なドリブルをBGMにして、彼女は言ったんだ。

弟を追い抜こうなんて思うのは、無意味な事だと。
あれは、彼女があまりに劣るからだと思っていた。が、真実はそうではなかったのだ。

あの言葉の本当の意味は。

「そりゃあ最初っから赤司よりスゲーなら、赤司を抜いてやろうなんて意味無いよね……」
「なんの話だい?」
「前にちょこっとだけ征華と喋ったことがあって、そん時の話」

首をかしげるので覚えているだけのことを伝えると、赤司は笑って。

「そんなことを言っていたのか。悪い人だ」

以前実渕が見た、「嫌味な姉だ」と詰ったのとは違う。まるでいたずらっ子を相手にしているように、実に軽々と笑い飛ばした。


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