「再会」
征華が走った先、洛山高校控え室。
丁度、選手がぞろぞろと出てきているところで。
征十郎は、先頭にいた。
「っ征十郎!」
「!? ね、えさん……?」
まさか見に来ているなんて思ってもいなかったらしい。それはそうだろう、なにせ征華自身も、黒子に誘われて啖呵を切られたりなんかしなければ、今も試合の結果など知らずに自室に閉じこもっていたに違いないのだから。
余りに予想しなかった出来事に棒立ちになってしまった弟に、まるで飛び付くようにして疲れているであろう身体を抱き締めた。
「姉、さん……? なぜ、」
「昨日、黒子くんに誘われたの。あなたに絶対に勝って見せるから、って」
「黒子が……」
姉を引き剥がすことも、受け止めることもできない中途半端に宙を彷徨う手に気付かないまま、征華は震える声で喋り続けた。
「ごめんね征十郎。ごめんなさい。良かった、あなたが彼と……彼らと出会えて、本当に良かった」
何も言えないままの弟から離れて、にこりと笑い掛けた。もう拭う意味もないくらいに、征華は涙を流していて。
「試合、お疲れさま」
「……ああ。ありがとう、姉さん」
彷徨っていた手を伸ばして、姉を抱き締めた。
男である自分より、バスケットプレイヤーとして身体を作っている自分より、姉は一回り小さかった。
それでも、背を撫でてくれる手は昔から変わらなくて、暖かくて、優しかった。
初めて味わった敗北は、とても胸が苦しくてとても消化できそうな物ではない。
本当はあなたに教えて貰いたかったのだけれど、なんて恨み言もあったかもしれない。
だけど、多分、今はこれで、十分だ。
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