「大切な思い出」




紅葉に染まる秋の嵐山。
観光客で賑わうその喧騒からは少し離れた人気のないところで、征華はしゃがみ込んで拾った紅葉した楓を一つ拾って、くるくる回す。

くすりと笑みがこぼれたのは、昔この楓の落ち葉まみれになった弟の姿を思い出したのだ。

あれはまだ小学校に上がったばかりだった。
秋、遊びに出て紅葉した山の中を駆け回る弟に、危ないから、と声をかけた矢先。

「っ!?」
「征十郎!」

落ち葉に隠れていた木の根に足を取られて、周囲の落ち葉が舞い上がるほど勢いよく倒れこんだ。

「もう、だから言ったのに……大丈夫? けがしてない?」
「うん……大丈夫」
「あら」
「?」

転んだ弟が起き上がると、頭のてっぺんからすっかり落ち葉がくっついていたのである。
クッションになってあまり痛みはなかったようで、ぱさぱさと払い落としてやると、きょとんとして。二、三度目を瞬かせて、くすくす笑っていた。

そして、その翌日。

「? 姉さん、何してるの?」
「しおりを作っているの」
「しおり? 本に挟む、あれですか?」
「そう。征十郎も要る? 二つ作ったから」
「いいんですか?」
「もちろん。ほらこれ、昨日、あなたにくっついてたもみじ」

台紙にぴったり貼り付けて、ラミネートした赤い落ち葉に赤いリボンをつけて、その一つを手渡した。
転んだことを思い出してか、一瞬不服そうに口を尖らせたが、すぐにありがとうございます、と笑って。

「姉さんは、もみじが好きですね?」
「……そうね。好きだよ。だって、私達とおんなじ色だもの」

そう、首を傾げた弟に笑いかけた。

「あら征ちゃん、なにか落としたわよ。ほらこれ……栞かしら?」
「ああ、すまないね。確かに僕のだ」
「いいわね、その栞。少し形がいびつだけど……」
「形は仕方ないさ。征華が昔作ったものだから」
「お姉さんが……?」
「……ああ。拾ってくれてありがとう」
「え、ええ……」

同じ赤色の紅葉は、もう、今となっては。
その思い出と同じように、すっかり色褪せ鮮やかさを失ってしまっていた。


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