「つかの間の逢瀬」

 


本当に、最近の後輩共は一々生意気だ。
ここ最近、未だ根強く残るはずの年功序列制度は(俺の周りでは)鳴りを潜め、デカい面で実力社会を謳う後輩共がのさばっている。

「こんにちは、黛先輩」

しがない無力者は、昼休みというつかの間さえ、自由に過ごすことが許されないらしい。

そんな、自身が日夜めくる本の序章のような事を考えながら、聞き覚えの無い高い声に、黛千尋はうんざりした様子で顔を上げた。

「……は」

それから、思わず間抜けにもポカンと口を半開きにして"後輩"らしき女子をまじまじと見つめる。
彼女は、余りにも似すぎていた。

鮮やかな髪の色、穏やかな所作。それに似つかわしくない、高慢な目つきや不遜な顔つき、尊大な態度も。そして、慇懃無礼な弧を描く口も。

なにもかもが、彼女は奴にそっくりで。

「はじめまして。私、赤司と言います」
「…………赤司」
「はい。弟が、お世話になっています」

にっこりと、人の良さそうな笑みを浮かべた彼女は、なるほど片割れだった。

手元の本は全然ページが進んでない。
何故か隣に立って外を眺め始めた彼女に、まさかあからさまに去れと言えるはずもなく、なんとか読書に集中しようと試みるもさっきから同じ一文ばかりを読んでいた。

全く持って、意図が知れない。

「……何か用なのか」
「あら。そうですね……強いて言うなら、お会いしたかっただけです」

風に流される髪を抑えて、"落ちこぼれ"は笑った。
多分、知ってる。こいつは、なにもかも。

「赤司」
「……はい?」
「誰の事も信頼出来ないのは、血筋か?」

しおりを挟みながら本を閉じた。
口に出した言葉は、今までずっと繰り返し読んでいた本の一文で、想像以上に自分が痛々しくなった気がして、なんでもない、と言おうとしたが。

「ええ……そうかもしれませんね。父譲りですわ」

力無く弧を描く口が、そのまま「それではお邪魔しました、失礼します」と言って踵を返す。

「……赤司征華、ね」

事実は小説より奇なり。

相変わらず、屋上には変な奴ばかりが訪ねて来やがる。
時計を見れば午後の授業が始まる10分前。

嗚呼、今日も小説を読み進められなかった。


 
[ 12/20 ]




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