「勝利の誓い」

 


机の上に放り出していた携帯が、珍しく光り着信を告げる。
電話自体も珍しかったが、これまたその相手も珍しかった。

一体どうしたかな、と柄にもなく緊張しながら通話ボタンを押した。

「……もしもし」
「こんばんは、征華さん」

携帯の向こうから聞こえた声は実に涼やかだった。
以前、最後に会った時の表情を思い出しながら、こんばんは、と返した。

「明日は、試合なのでしょう? 休まなくても良いの?」
「ふふ……やっぱり、ご存知なんですね」
「ええ。緑間くんは……負けてしまったのね」

私の言葉に、はい、と固い声で答えた。
数秒、沈黙が流れる。

彼は一体、どんな意図を持って電話を掛けてきたのだろう。

そうぼんやり思っていると、征華さん、と沈黙を破られる。

「ええ、なにかしら」
「明日……明日、僕は赤司くんと試合します」
「……ええ」
「明日の試合、観に来ては貰えませんか?」

これは、征華も予想していなかった言葉だった。
物理的距離を問題にして断る手はあった。
が、そんな事はお見通しだと言うように彼は、実家に戻ってきて居るんでしょう、とも言って。

「……困ったね。どうしてわかったの?」
「勘です」
「ふうん?」

さて、どうしたものか。
明日は特に予定があるわけじゃない。
しかし、帰ってきては居ても、弟の試合を見に行くつもりなんかさらさら無かった。
弟だって、まさか観に来るだなんて思ってやしないだろう。

だから、断ろうと思った。

「征華さん」
「?」
「僕、勝ちます。明日、必ず。勝って見せます。仲間達と」
「―――……」

大層な自信だ。中学時代では考えられないほどの。
淀みなく、ためらいなく、彼は言い切った。

「ふ……ふふっ、あはははは! いやね、おかしい人。わざわざ弟が負かされる所を見に行けというの?」
「ええ、是非」
「ふふ、清々しいこと。……いいわ。期待、しているから」
「……はい」

それじゃあ突然すみませんでした、おやすみなさい、と。
その言葉を最後に彼は通話を切った。

電子音が流れる携帯をまた机の上に放って、外を眺める。

「……明日が楽しみになるなんて、いつ振りかしら」

外は暗く、冬の空には高く星が瞬いていた。


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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