「一家団欒」
十数年前、寒い冬の夜。姉と、それと少し遅れて俺が産声を上げたその日から。
その日から、今に至るまでのレールは、既に定められていたことだったのだろうか。
父に対し、家族らしい感情を抱いたことはなかった。否、あったかもしれないが、もう物心つく頃には無駄な事だと知った。
変わりというわけではないが、母は特別優しかったし、姉との仲も良好だった。
特に幼い頃は、アルバムを見る限り、彼女の後ろをついて回る自分ばかりがいるし、一緒に写ってないような事は殆ど無い。
幼い姉は、幼い自分の手を引いてくれていた。
アルバムの中の自分達は、皮肉なくらい、同じ顔だった。
笑っている写真は二人とも笑っているし、泣いた写真は二人とも泣いている。
アルバムの中から母の影が減ってきた頃。
写真の二人の表情から感情が徐々に薄くなり、遂に、なくなった。
「征十郎」
「……征華」
「そろそろ行きましょ。遅くなっては、明日に差し支えるでしょう?」
「ああ……そうだな。もう、こんな時間だったのか」
多分、僕は征華が嫌いだ。
それでもやはり同じ顔をした片割れで、もう今は二人並んで笑うことも泣くこともしなくなったけれど。一年に一度、この日ばかりは肩を並べてなんとなく、なんとなく手を取り合って立ち尽くす。
「……征華」
「……なに、征十郎」
「―――……」
「…………たらればに、意味なんて無いのよ?」
「ああ……そうだね。その、通りだ」
それでも、なにも言わずに察したお前だって、同じ事を考えたんじゃないかって。
せめて、目の前にいる母が冷たい石なんかじゃなく、暖かい生身の人間だったなら。
僕達だけでも、もっと違った関係でいられたんじゃないか、なんて。
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