「王者の風格」

 


到底適わない相手に対しては、尻尾を巻いて逃げるか、もしくは頭を垂れておとなしくしていること。
それは人間だけではなく、この世に存在する全ての生物の本能に刻み込まれていることだ。

だからだろう、"あの"赤司征十郎に刃向かおうとは誰も思わない。
……だのに。

「征華はさあ」
「ええ、なんですか葉山先輩」
「なんでそんなになんにもできねえの?」
「あら……そんなの決まっているじゃあありませんか」
「出来損ない、だから?」
「ええ、そうです」

戯れに渡してみたボールで遊びながら、彼女は愉快そうに噂通りのセリフを吐いた。
手元のボールはドリブルをしているらしいが、べいんばいんとリズムはめちゃくちゃだし、あっちへこっちへと安定しない。初心者以前のそれだ。
それがウリのプレイヤーとしては見るに耐えないが、似つかわしくなく、彼女の手は実に優雅にボールを叩いている。

「征華はさあ」
「はい、なんですか?」
「赤司を抜いてやろうとか、思わねえの?」
「……葉山先輩」
「ん?」
「先輩は、思われます? 征十郎を抜いてやろう、なんて」

バシッと一際強く叩かれたボールは、今までより高く宙に放られ、ストンと征華の腕の中に収まった。
実に馬鹿馬鹿しいと言いたげな表情の彼女に、ヘラッと笑ってやった。

「まさか。俺じゃ無理っしょ」
「ふふ。つまりはそういう事です。思うのはタダですけれど、それすら無駄でしょう?」

悪戯っぽく笑った彼女の表情に表れているのは、やっぱり「馬鹿馬鹿しい」と言わんばかりの感情のようで。

人間も動物、本能が自分以外を淘汰したがる反面、本能が危険を遠ざけたがる。

俺の前にいる彼女は赤司征華、あの赤司征十郎の双子の姉で出来損ないの落ちこぼれ。そのはずだ。

「征十郎に勝とうなんて思うのは、無意味なことですもの」
「そう……だね」

ならば、今俺の背に流れる冷や汗はなんだ?


 
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