気分的には
鬼の居ぬ間に洗濯

 


「ほっほんとに来たんだ……!」
「うわなんだそれひでえ」

開口一番の弓長のセリフにケラケラと笑った。

眼鏡屋ってどこにあんの、と訊ねたらバスで行くけど大丈夫、と訊ね返された。
それに頷いて、とりあえずついていった。

行き掛け、無言と言うのは少しだけ気まずい物がある。かと言って弓長も自分から喋るタイプじゃない。

多分、俺が部活に触れて欲しくないように、彼女も学校の事には触れて欲しくないだろうから。
そうではない、適当な話を振った。
彼女も、部活の話を俺に振ってくることはなかった。

「おお……眼鏡のフレームってこんな種類あんのか」
「うん、色も形も結構色々あるんだよ」
「ふーん……あ、なあなあ弓長、これは?」
「あっ、赤フレーム……!?」

適当に取ったのを弓長の顔に掛けてみる。
あっ、思ったより悪くない気がする。多分。

「わ、私的に赤って物凄く冒険なのですが……!」
「いんじゃね? 悪くねーと思うけど」
「うー……そうですか……?」

鏡と睨み合う後ろ姿を見ながら、ふうと息を吐いた。

緩い。
時間の流れが物凄く緩く感じる。
端的に言えば、かなり気が楽だ。

こんな気の緩んだ休み久し振りかも、とぼんやりしていたら、新しく貰ったらしい眼鏡ケースを握り締めた弓長が振り向いた。

その顔には、きちんと度入りのレンズがはめられた赤フレームの眼鏡をつけて。


 
[ 8/22 ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -