きっと誰でも
目は口ほどに物を言う

 


初めてまともに話をしたあの日。彼は私に嘘が下手だと言った。
だけど、それはお互い様ではないか、と思った。

いつかの鏡に映った自分と同じ顔をして、彼は今なんでもないと言った。
なにか、私の知らない彼の一面が、耐えかねることがあるんだろう。

私のような存在が居てもいいと言ってくれるのだから、おとなしく従っておこうと思う。

しかし、またも貰ってしまった。
そうだ、私は彼にお礼をしようと思っていたのに。

「矢巾くん、あの昨日、ありがとう。逆方向だったのにわざわざ」
「え、いや、別に。って言うかそういや眼鏡」
「あ、うん。日曜日に買いに行くの。これはスペア変わり、かな」

野暮ったい黒縁をなぞりながら言うとふーん、と答えてジッと見られる。
え、顔になんかついてるかな。変な顔してる?
ど、どうしよう、そらすにそらせない、と慌てていたらずいっと顔が寄ってきて口から心臓が出そうだった。

「日曜って今週? しあさって?」
「うっ、うい、うん……!」
「一人で?」
「ふ、う、うん……!」

こんな至近距離で他人(しかも異性!)と話をすることなんて普段無さ過ぎて、ばくばくと心臓が早鐘を打ち、目がちかちかする。
そんな私の事などお構い無しに彼はその至近距離のまま首を傾げた。

「なあそれ、ついて行ってもいい?」
「ぅえっ、な、なな、なん、で……っ!?」
「眼鏡屋って行ったことねーんだよな俺。なんか興味ある。日曜暇だし」

弓長一人でって大変そうだし、とも確か彼は言った。
私はと言えば、極度の緊張のため、わけが判らないままこくこくと頷いてしまっていた。
気付いたら、ようやく離れてくれた矢巾が、日曜日迎えに行くから、と無邪気に笑っていた。

な、なんて心臓に悪い人なんだ……!


 
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