犬も歩けば棒に当たる
とは言いますが

 


くわんくわんと揺れる視界に聞こえた声によろよろと起き上がって何とか答える。
痛みにじわりとにじむ目に飛び込んできたのは、酷く焦った顔のクラスメートだった。

「だっ、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ……すみませんこんなタイミングで通りかかってしまって……」
「いやいやいやいや、普通に俺が悪かった。すまん」
「いえいえ大丈夫で……あ」
「え? あ゙っ……!」

ふと、ボールがぶつかった拍子に落ちてしまった眼鏡を拾い上げた。
ら、ぺきょ、というか細い断末魔を上げて右の蔓が真ん中から外れた。もとい、折れた。

「うわーっ、わっ、悪い、ほんとにごめん……!! べっ、弁償する……!」
「えっ、いえいえ、あの、これ、元から、元からですから……!」
「お前嘘下手だよ! めちゃくちゃ目泳いでんぞ!」
「うっ、い、いえしかしその、事故、事故ですから! 矢巾くん悪くないですから!」
「いや、まっ、ちょっと待ってろよ! すぐ戻るから! 帰んなよ!」
「へっ、はっ、はいぃ……!」

あまりの剣幕に思わずこくこくと頷いてしまった。またちょっとくらくらした。

ふと、転んだ瞬間に散らばってしまっていたものに気付いて、慌ててかき集めて元のようにバッグに突っ込む。
キョロキョロと周囲を見渡すが、拾い残しはもうないか、と安心した瞬間、あたりが暗くなった。

びっくりして振り向くと、ガタガタと音を立てて体育館が閉まる。明るい体育館の照明が落ちたから暗くなったのだと理解した。

それから体育館に鍵をかけた矢巾が、ジャージ姿でバタバタと走ってきた。

「よし、居たな」
「……あ、あの」
「帰るぞ。送る」
「えっいやでも」
「どんだけ目が悪いのかは知らねえけど。普段から眼鏡掛けてるって事は無いと困るくらいなんだろ」
「う……ま、まあ」

それ程近視ではないが、乱視なので実はそこそこ困る。
大丈夫だと言っても、先程指摘されたとおり私は嘘が下手だ。多分またバレる。

「わざとではねえけど、ボールぶつけたんだし。そんくらいはする」

意外と、彼は頑固だ。
どうやらこれは断って帰ったところで付いて来そうな雰囲気である。

それならば。

「えと、それじゃああの、お、お手数おかけしますがお願いします……」

ぺこ、と頭を下げた。
顔を上げたら、おう、と彼は満足げに頷いた。


 
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