人の出会いは
千差万別

 


3月1日。三年生が卒業した。
もうすでにそうだったが、名実ともに矢巾秀は新主将として、男子バレー部を率いることになった。

修了式後も、午後から練習があり、終わった後も彼は一人居残り練習に励んでいた。
それは偏に主将となった責任感や純粋な向上心からではない。勿論、それは十二分にある。
しかし、それ以上に彼にはのしかかるプレッシャーがあった。

前主将であった及川徹は、県下総合力No.1のセッターだった。個人の実力もさることながら、周りを活かすことに一層長けた選手だった。
尊敬する先輩である。しかし、やはりそれ以上の嫉妬がある。
彼は「天才」を忌み嫌っていたが、矢巾からしてみれば及川だってその一人と言ってよかった。

前主将と新主将。同じポジション。
二人を知る同輩や後輩、果てには監督やコーチにすら比較されている気がした。一部の同輩や後輩からは実際に比較されて勝手に幻滅されていたのを聞いた。

思わず、ベンチにも入ってない奴に言われる筋合いは無い、と内心呟いてしまった。
腐ってどうするんだとすぐに思い直したが。

そうして自己嫌悪に陥り、またそれに対する苛立ちをボールに叩きつけた、時。

「あっやべっ」

ボールは開いていた出入り口を通って体育館を逃げ出した。
拾いに行こうと駆け出した瞬間、バコーンッ、と言う何かにぶつかる音がして足を早める、と。

へろへろと倒れて側頭部を抑えて震える女子と、傍らに転がるバレーボール。
なにが起こったかは記すまでもないだろう。

「うわっ、マジかよ……! 悪い、大丈夫か!?」
「は、はひ……すみません……大丈夫っす……」

駆け寄った矢巾にふらふらと上体を起こす。

それが、矢巾秀と弓長千弦の事実上の出会いであった。


 
[ 2/22 ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -