今だけは
天にも昇る心地

 


「ヤッホー、みんな。調子どう〜?」
「及川さん! お久しぶりです!」

4月。一年も入部し、新体制でてんやわんやしている体育館の中、懐かしい声が響いた。
昨年のスタメンの先輩四人がわざわざ予定をかみ合わせ、様子を見に来てくれたらしい。

みんなラフ、というか、数ヶ月前までよく見ていた練習着で来ていて。
ミニゲームを見て貰ったりして、休憩になった瞬間、及川がにやにやと笑いながら急に肩を組んできた。

「うわっ、な、なんスか!?」
「いーやー? お前、中々主将が板についたみたいじゃなーい。ま、及川さん程じゃないけど!」
「クソ川よりよっぽどしっかりしてんじゃねえか。その調子でやれよ」
「岩ちゃん酷い」

ぐしゃぐしゃと頭をかき回されて、それを見ていた松川や花巻も、俺らにもあとでトス練のついでにスパイク打たせろよ、と笑っていて。

内心、酷く安心していた。
正直、主将としてはまだまだ心許ない気がしているのだ。だけど、とりあえず、尊敬している先輩達を幻滅させてはいないと、安堵した。

その時だった。顔を上げた視線の先。普段は憎らしい程のポーカーフェイスな国見が、に、と口角を釣り上げたのは。
おい、待て、お前。

「まあ、矢巾さん最近かわいー彼女さんも出来て絶好調ですもんね」
「国見黙れお前ちょっとマジで黙って!!!」
「はあああ!? 矢巾お前マジで言ってんの!? 及川さんにもいないのに!!」
「おい渡、矢巾の彼女って誰?」
「なんか情報ねえの?」
「上に居ますよ。あの子です、弓長さん」
「教えんなよ渡!!!」

弓長さあん、なんて及川が大きな声で呼ぶので、まあまあ彼女に注目が集まる。ごめん弓長。でも俺これ悪くない。
下からでも判るくらい真っ赤になってわたわたと慌てて、ぺこりとお辞儀をしてスケッチブックで顔を隠した。

「アララッ照れ屋さんなんだね〜」
「及川さんマジでやめてください国見と渡は後でシバく」
「似合いませんよ矢巾さん」
「お前だけはマジ今すぐシバくぜってえシバく」
「矢巾さん落ち着いて下さい!」

金田一に羽交い締めにされながら、ぎしぎしと国見に近付いていく。実質全然近付けてないけど。
後輩で遊んでんじゃねえよと岩泉が及川の後頭部にボールをぶつけているのを久々に見て、少しスッとした。

「あいたたた……。はあ、まあ冗談はこのくらいにしよう」
「十分過ぎです……」
「ねえ矢巾」

先程までと一転して、及川の声が真摯なものになって、自然と背筋が伸びた。
それを見て、彼はにこりと笑って。

「俺とお前は同じセッターだから、同じコートに立つことはまあ無かったね」
「はい。……去年、及川さんが捻挫してた烏野との練習試合くらいッスね」
「あっ、それは忘れなさい! ……まあだから、直接試合でお前に言ったことは無かったよね」
「……」
「卒業の時に一回言ったけど、なんかお前変わったみたいだからもっかい言っとくよ。信じてるからね。お前の努力も、実力も、チームも。全国で、優勝して来いよ」
「オス!」

ああ、多分、俺はこの言葉が欲しかったんだ。
正確には、この言葉をしかと受け止められる自分になりたくて、そしてその上で、この言葉が欲しかった。
他の誰でもない、誰よりも尊敬している先輩から。

チラリと見上げたギャラリーで、弓長と目があった。
にこりと笑ってくれた彼女に、今日もちゃんと頑張れそうだと現金なことを思いながら、俺は練習再開の声を張った。


 
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