言葉を尽くしても
伝えきれないから
矢巾さん最近調子いいスね。
ぽそりと言ったのは、後輩でスタメンの金田一だった。
「そーか?」
「なんつーか、スパイク打つのが前よりしっくり来ます」
「……そうか」
少しずつ。少しずつ。
少しでも、スパイカーが打ちやすいトスを。フェイク、ツーアタック、レシーブだって出来なければ意味がない。
俺が崩れてはいけない。俺は今、このチームの芯であるのだ。腐っちゃ駄目だ、折れてもいけない。
前はそれは酷く重たい物だったのに、今は、しかと手に握り締めることが出来ている気がする。
俺と他の誰かが出来ることは同じじゃない。だから、比べることが端から間違いだったのだ。
それがようやく、綺麗事でもなんでもなく自分の中に浸透していったような気がする。
「……なあ弓長」
「なあに矢巾くん」
「俺、さあ」
「あっ、ま、待って!」
え、なんて短い音で俺の言葉は途切れた。
ここんとこ日課になった(と言っても5日くらいの事だが)自主練の後に弓長を送り届ける途中のことだ。
あの、あのね、と少し言い辛そうにしながら、彼女が手にしていたのはA4サイズのスケッチブック。
それを両手で、俺に差し出した。
「へ……?」
「こ、こんな物がお礼になるかどうかもわかりませんが、私の取り柄ってこれしかないし、殆ど自己満足でしかないですが……!」
そろそろとそのスケッチブックを受け取って、震える手で表紙を開く。
天の邪鬼な俺は裏表紙から開いた。
が、最後の紙にも、しっかりと鉛筆の色は乗っていて。
他のページもぱらりぱらりと捲る。
どのページに居るのも、俺だった。
自主練をしているのが殆どで、時々、その後の片付けをしている時の俺がいた。
まさか、先日、彼女が練習を見たいと言い出したのは。
「あー……」
「……!」
「……なん、つうか。……すげー、嬉しい」
けどちょっと美化しすぎだろ、と呟いたのは、単なる俺の照れ隠しなんだけど。
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