好きこそ物の上手なれ
の精神で

 


周りの人達は知っていたかもしれない。
それでも彼の矜持を守るために、なにも言わなかったのだろう。
彼も、やっぱり自分の矜持を守るために言わなかった。

「しんどい」、って。
たった四文字のその言葉は、すごく重たい物だった。
一人でずっと抱えていたその言葉を、彼は、やっとの思いで吐き出したのだ。

「弓長ー」
「こんにちは矢巾くん。練習お疲れ様です」
「おう。今日なにやってた?」
「数学が終わりました。ご飯の後は倫理をやります」
「うげ、倫理とか」
「苦手そうだね」
「うん、無理」

彼とは、またお昼ご飯を共にする関係が続いていた。

「……な、弓長」
「なんでしょう矢巾くん」
「とってつけたみたいで悪いけど」
「はい?」
「俺、お前の絵好きだよ。こないだちょろって勝手に見ただけしか知らないけど。すげえなって思った。もっと色々見てえなって」
「……な、な、なにを」

言っているのか。判っているのか。この人。
なんて、なんて質の悪い人だろう。
ずるい。悔しい。嬉しい。ずるい。

そんなふうに言われたら、悪態をつくことだって出来やしない。

「……矢巾、くん」
「ん?」
「お願いが、あるんですが」

だから、この図々しいわがままは、全面的に彼の所為にしておこう。
せめて私の中でだけは。


 
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