手を拱いているだけは
性に合わない

 


「矢巾くんは、バレーは嫌いですか?」

訊ねられた言葉に、即座に首を横に振った。そんなのは考えたこともなかった。
所詮俺は凡人だ。天才側の苦悩なんて知らない。
知ろうとも思わなかった。どころか、よく聞く言葉はそんな風に聞こえるのかとすら思った。

「……正直言えば、嫌になった。嫌いにもなりそうだった。けど、そんな自分が、一番嫌なんだよ」
「矢巾くんは、大丈夫ですよ」
「なにが」
「だってそれでも、バレー嫌いになれないじゃないですか。練習、頑張ってます。がむしゃらだって闇雲だって、あなたは努力をしてる」

努力を続けられずに挫折していくやつはどこにでもいる。うちの部にも、練習についていけなくて辞めていったやつがいる。
必要なのは負けん気と向上心。

「矢巾くんがご自分をかなり下に見ているのはわかりました」
「おい」
「体験談ですけれど。しょうもないと思うかもしれませんが、縮こまれば縮こまるほど下に見られる一方ですよ」
「ゔっ……わっ、判ってるけどなあっ」
「君を信じているチームメイトもいるのではありませんか? バレーは、個人競技じゃないです」
「……おう」

そんなのは、言われなくても判っている。
だからこそ、期待に応えられない自分が歯痒いし、やはりどうしてもあいつらにすら比較されてガッカリされているのではと思うのだ。

そんな俺の胸中もお見通しなのか、弓長はひっそりと笑って言った。

下剋上、という言葉があるんですよ、と。


 
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