語るに落ちる
胸のうち

 


「俺の先輩にさ、及川さんって人いんの。弓長、知ってる?」
「……お名前、だけ。女の子達が、騒いでたから」
「うん、その人。県下総合力No.1セッターとか言われててな。あ、セッターってポジションなんだけど、俺と同じ。しかもその人主将で、俺も今そうで。当たり前にめちゃくちゃ比べられるし、そんで必ずガッカリされんの。俺が。憧れるし尊敬もしてる。けど、純粋にそれがすげー重たい」
「……はい」

超高校級エースのウシワカは高校バレーの舞台から居なくなった。それでも白鳥沢が強豪なのは変わらないし、なにも強豪とはそこだけではないし、天才は後ろにもいる。
烏野の正セッターはコート上の王様と呼ばれた影山の筈だ。一度だけ対戦したあいつは、紛れもない天才だった。

及川達が居なくなって、チームの質が落ちたと言われるのは嫌だった。リベロだってスパイカーだってうちの奴らはみんな優秀だ。レベルは高い。
だけど、それを動かすはずの主将の、司令塔の俺は?
引退していった先輩達に、チームメイトに、胸を張れるか?

息が詰まりそうな批評。今にも膝を折ってしまいそうになるプレッシャー。そんな話を、弓長はただ黙って、飲み物に手をつけることもなく聞いていた。

「……だからっていうのは言い訳だけど。でも、お前が言ったことを受け止める余裕が俺に無かった。そんで、あんなこと言った。ごめん」
「……」
「あと、もういっこ謝んなきゃいけないことがある」
「え?」
「これ、落ちてたらしい。うちの一年が拾ってきた」
「あ……っ!」

おずおずと差し出したスケッチブックを、弾かれたように受け取った。
それから中をぱらぱらと見て、少し渋い顔をして、ちらりと視線を寄越したから。

「勝手に中見た。ごめん」

と、素直に白状すると、彼女は静かに深く溜め息をつきながら、ソファーに沈んだ。
本当は、中を見たことで抱いた汚い感情も吐露しようと思っていたのだけど。

「……落とした私がいけないんです。拾って貰ったんですから、お礼以外に言うことはありませんよ」
「弓長、」
「ねえ矢巾くん。才能って、なんでしょうか」

伏せ目がちに呟いた言葉に口を噤んだ。

今度は、彼女が語る番だった。


 
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