一期一会
は大切に

 


「よう弓長。課題どーよ?」
「あ、矢巾くん。こんにちは。ええと、今日は英語やってました」

それから矢巾は飽きもせずに、部活が昼休憩になるとその日の昼食を手にわざわざ教室に来た。
月曜日にはあった赤フレームの眼鏡の気恥ずかしさにも、もうすっかりなれた。
まだ肌寒さを覚える早春のこの時期にも、午前中部活に精を出した矢巾の額や首筋には、汗が見える。

「英語かー、俺リスニングぜんっぜん駄目なんだよな」
「そうなんですか?」
「駄目。笑えるくれー駄目。数学とかなら出来んだけど」
「矢巾くんは理数系なんですね」
「かもな。物理とかは多分そこそこ出来る」

もりもりとお握りにかぶりつく矢巾の手元にはまだあと二つの包み。
よく食べるなあ、と思わず手元の自分の弁当と比べて思った。

「矢巾くん、すごいな」
「へ?」

ポツリ、と。
思わず思ったことがそのまま声に出た。

「あっ、いえ、すみませんいきなり! ほら、あの、矢巾くんてバレー部で部長さんをやってるんでしょう? それで、たくさん練習して、頑張ってて、凄いなって、思って……」
「…………それでも、勝てねえなら、意味がねえよ」

私の言葉に、すっと細められた目が酷く冷たかった。
まずい。いわゆる地雷だったのだ。

どうしたらいいか判らずに固まってしまった私に、彼はハッとして悪い、と苦笑いで誤魔化した。

だけど言った言葉は消せなくて、聞いた言葉は無かったことには出来なくて。

ああ、どうして私はこう、何事もうまくできないのだろう。
どうして悪い方へと物事を運んでしまうのだろう。

昼食が終わって去り際、さっきのは気にすんなよと言って彼は行ったけれど。

想像だってしていなかった、あの冷たい目と吐き捨てるような言葉は、結局午後の課題をやる間もずっと、脳裏にこびりついて離れなかった。


 
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