緑の特攻

 


藍川がたまたま廊下で遭遇したゼミの友人と話をしていた時だった。

「ほんとにこれでいい?」
「いいよ。どうせ大したことしてないし。貰う方が申し訳ないくらい」
「いや、それはないから! じゃああの、改めてこないだはありが」
「藍川!!! ようやく見つけたぞ!!」
「だっ!?」
「モブ山くん!」

バッスンと大きな物にはねのけられて、モブ山はベチンと壁に押し付けられた。
なんなんだ一体、と衝撃を受けた方を向くと、やけにもこもこした物が視界を覆っている。
なっ、なんだこれ……!!

「お前というやつは何故毎度毎度俺からの着信は無視なのだよ!!」
「お前らからの着信は誰が相手でも9割方無視だよ被害妄想すんな。っていうかなにその馬鹿でかいぬいぐるみ!」

そうかこれぬいぐるみか、と理解したが納得はできない。ぬいぐるみ。何故だ。何故ぬいぐるみが俺を押し退けるのだ。

「ラッキーアイテムに決まっている。俺は今日12位だったのだよ。だからこれがないとどうしても困ると妹に土下座までして借りた」
「プライドないのあんた」
「死なないためには捨てる。相手妹だしな」
「っていうかそんな事よりちょっとそれ退けて。人潰してんのよほんと迷惑な奴ね」

む、本当か全然見てないし気付かなかったすまん、と謝られているようには感じられない謝罪と共にようやく謎のぬいぐるみがモブ山を押しつぶすのをやめた。

「モブ山くん大丈夫?」
「だ、だ、だい、だいじょうぶ……」

ふらふらと立ち直すモブ山を見て、藍川がバシンと緑間の背を殴って。

「ごめんね。飲み物ありがとう。またね」
「う、うん、またね、藍川さん……」
「行くわよ緑間。話なら別のところで聞いてあげるから」
「む、ではこっちだ、黒子を待たせている」
「えっ、一人で待たせてんの? 見つかんのそれ」
「抜かりはない。人事は尽くした」

もっふもっふとぬいぐるみを抱え直した緑間と、彼が示す方へと藍川は連れ立って歩いていった。


 





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テーマ「人外ファンタジー」
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