藍の不運

 


「すみません、隣いいですか」
「ええ、どう……ぞ」
「あれ?」

大学入学後、必修科目の英語の講義。
ぼうっと外を眺めていたら掛けられた言葉に親切に頷いて、顔を見せたのが私の運の尽きだった。

「湊? 湊じゃないか!」
「あ……あか、し?」
「なんだ、同じ大学だったなんて! みんなも喜ぶな。ふふっ、懐かしい、中学時代を思い出すよ!」
「……みんな?」
「あれ? 知らないのかい? 僕達、全員この大学なんだけど」
「……うそ」

否。
この大学に進路決定した瞬間こそが、私の運の尽きだったようだ。

これからの四年間。
落ち着いた麗しいキャンパスライフなんてものは、夢のまた夢となった。

「え、藍ちんマジでなんにも知らなかったの?」
「知らなかった……ってかうわぁこの無駄に自然に囲まれる感じ久々だな」

英語の講義終了後、昼食を一緒に食べよう、とカフェテリアまで引き摺られ。
信じたくなかった現実を目の当たりにしたのが30秒前。

現在は口に出したとおり、藍川は懐かしの面子にずらりと囲まれていた。

「黄瀬のことも知らなかったのか? どの学科でも女子が騒いでいたぞ」
「興味ないBGMって頭に残らないのよね」
「興味ないとか……!」
「一ミリもない」

スパッと即答で切り捨てられた黄瀬が一人ショックを受けて机に突っ伏した。
(隣に座っていた紫原に黄瀬ちん邪魔、と言われて押し退けられていたが)

そんな黄瀬に構うことなく、桃井がこてんと首を傾げてみせる。

「テツくんのことも知らなかったの? 高校一緒だったのに」
「短大行くかと思ってたし……」
「藍川さんは推薦ですし、僕はAOだったから受験会場で会う、なんて事もなかったですしね。まあ僕は知ってましたけど」

しれっと言い放った黒子の足をテーブルの下で無遠慮に蹴り飛ばした。
正面に座っていたので当然の如く脛にヒットした。

プルプルと静かに悶絶する黒子を見やりながら青峰が口を開いた。

「つーか俺とさつきはテツからお前ら二人がここって聞いたからここ受けたんだけど」
「ていうかここって青峰と黄瀬でも来れるようなとこなんだ……」
「あれれ湊っちなんかショック受けてない? なんで??」
「湊ちゃん、今はAOっていう方法があるし、二人ともなんだかんだ話題性のある人達だから……ね?」
「おいさつきそれどういう意味だ」

やんややんやと騒がしくなり始めた中で、まあこれから四年間よろしくね、なんてカラカラ笑って締めくくった紫原の言葉に、藍川は嫌だ、という言葉をなんとか絞り出してうなだれた。


 





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