帝光祭編:前日
学内の掲示板や廊下の壁の空いたスペースにポスターを貼り付けながら、藍川は溜め息を吐いた。
「部長またですか!?」「今年もなんですか!?」「気を確かに持って下さい部長!」なんて後輩達から悲鳴を受けたが、まるっと全部私が言いたいと思いながら、ポスターの四隅に画鋲をねじ込んだ。
ポスターには、一つのシルエットと、キセキの世代を探せ、とけばけばしい赤色のフォントがでかでかと印字されている。
リアルウォー○ーを探せ、と言えばわかりやすいだろうか。変装したキセキを探し出して、写メを新聞部のブースに見せにくれば景品(見つけたキセキ各人のブロマイド)が貰えると言うものだ。ちなみに参加料は(標的)一人につき100円。去年に引き続き藍川は黄瀬メインのビラも売るので、相変わらず部費対策には抜かりは無い。
ちなみにポスターのシルエットと、フォントの色が各人の変装のヒントになっている。
変装も何も、一人を除いて誰もが目立つのだから余裕のゲームな気はするが、最早藍川の頭にはここまでくれば売り上げ一位になることくらいしか救いがないのである。
「お疲れさまです藍川さん」
「うわっ!?」
にゅっと背後に現れた声に、思わず持っていた画鋲をケース毎落としてしまい。
「うわあああああ何するんですか! あっぶないですね!」
ザララララ、という音とともに、声の主……黒子の(元居た場所の)上に降り注いだ。
危なかった……と胸をなで下ろす黒子に、藍川は椅子の上から動く事なくぼそりと。
「……あんたも焦ったりすんのね」
と、斜め上の感想を呟いた。
「どこに驚いてやがるんですか君は」
「いや、つーか変なタイミングで変な声の掛け方しないでよね。拾ってよそれ」
「まきびしじゃないですかこれ……」
やれやれなんてわざとらしく頭を振りながらも、黒子は画鋲を拾うためにしゃがみ込んだ。
そのつむじを椅子の上から見下ろしながら、藍川は深々と溜め息を吐く。
ゲームの説明の時点で察していただけたかもしれないが、最早彼らは中学生最後の学園祭を全力の悪ふざけで楽しむことしか頭にない。設定など、どうやらそっちのけである。
「……藍川さん」
「ん?」
「楽しい学園祭にしましょうね」
「……そうね」
拾い終わりました、と黒子から画鋲の詰まったケースを受け取って、残り数枚のポスターを抱えて椅子を引きずって歩き出す。と、手伝いますよと追ってきた黒子が椅子を抱えて隣に並んだ。
放課後の学校、窓から射し込む夕陽、そして人気の無い廊下で。
「……でも、黒子はどうせ桃井くらいにしか見つけて貰えないだろうから別にわざわざ変装して逃げ回る必要もないわよね」
「せっかく僕が青春ぽく纏めようとしてたのに全部台無しにするのやめてください」
「うるせえこんな青春認めてたまるか」
明日に迫った最後の学園祭を前にしても、やはり二人はいつも通りだった。