帝光祭編:序章

 


「あ、火神」
「ん、おお、藍川か」

片手を上げて答えた彼に確認を取って隣に座った。
昼休みを利用した合同ゼミ説明会の為に、普段あまり顔を合わせない友人に会うとは思っても見なかった。

「お前経済だっけ」
「うん。火神は……国際交流だったっけ?」
「おう。一番楽そうだったからな」

外国語アレルギー甚だしい日本人にとって国際交流なんてのは殆ど自殺行為か自慢の種になりがちなものだが、帰国子女にとっては楽の一言に尽きるものらしい。

「つーかよ、この集まりなんなんだ?」
「はあ? ……火神、相変わらず先生の話聞いてないんだね」
「……悪かったな相変わらずで」
「うちのゼミ担とそっちのゼミ担が仲が良いらしくて。大学祭でなんか合同でやりたいんだってさ」

丁度一年も多いし、交流も兼ねて、だそうだ。

大学生になっても、学業から離れると実はやることはあんまり変わらないよなあと思う。
ふうん、と、訊いた割には気の無さそうな返事の火神に溜め息。

なんだかんだで、こんな行事で一緒になった知り合いが火神で良かった。

「なんか藍川疲れてね?」
「いや……火神でよかったなあと思って」
「はあ? ……ああ、そう言う」
「中学の二の舞は御免だもの」

漸く姿を見せたゼミ担二人に視線をやったまま頬杖をついて、フンと鼻を鳴らした。

「帝光祭も、この時期だったからね」

忘れたくても、濃すぎて忘れられない記憶を嫌が応にも思い出してしまい、また深々とした溜め息。

そう、あれはほんの5年ほど前の話だ。


 





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