桃の料理
第六感とでも言うのだろうか。なんなんだろう、こいつらの嗅覚。
もう早く撤収してくれたらいいのに。
一人暮らしの自宅の、そう広くないリビング。
そこではなぜかカラフルな奴らが勢揃いしていた。
最初は桃井だけの筈だったのだ。
彼女が料理を教えて欲しいと懇願してきたので、そう言うことならとお互い都合のいい日時を設定して、部屋に招いた。
が。
何が起こったやら、昼過ぎにはすっかりあの全員が集合しやがっていた。
私と桃井の料理の試食会と称した食事が行われているし、一体誰の仕業かテレビにはホラー映像が流れている。
あのお決まりのような、「おわかり頂けるだろうか……もう一度ご覧頂こう」というナレーションに、赤司は紫原の背中に張り付き、青峰と黄瀬は抱き合って震える。
そんな中、黒子は平然と僕トイレ行って来ますと言ってリビングを出て行き、緑間がくるりと藍川の方に振り向いた。
「おかわりいただけるだろうか……もう一度ご飯頂こう」
「やかましいわ」
傍らのしゃもじを緑間にぶん投げて溜め息。
視界の端で、額にヒットしたしゃもじを拾って本当にご飯をおかわりしている緑間がいた。
全く、馬鹿騒ぎなら赤司の家でやって欲しいものだ。
というか、ひたすら自分が関係ない所でやって欲しい。切実に。
「ちょっとみんな! 湊ちゃんのばっかりじゃなくて私のも食べてよ!」
「えー……さっちんの焦げてんじゃん」
「見た目より苦くないから大丈夫! ここにある分は湊ちゃんに全部お墨付き貰ったんだからね!」
「青峰くん、はいあーん」
「いや俺さつきの手料理アレルギーだから……」
「大ちゃんの馬鹿! ほんとに美味しいんだからね!」
食べられる料理まで無駄にするわけにはいかないので、桃井の作った料理をもさもさと口に運んでいく。
たまに妙な感触がするのもご愛嬌だ。こういうまともな見た目の料理になるまでとても大変だった事を思えば。
包丁は振り上げないとか、野菜は洗うとか、慣れるまで無用なアレンジはしないとか。料理は加減が命。調味料の加減、火加減、時間、順番。
簡単なことだが、慣れるまでは難しい。
独創的なアレンジは、一通りのレシピ通りが出来てからだ。
「赤司」
「うん?」
「口開けて」
「? むごっ」
桃井作の野菜炒めをたっぷり赤司の口に突っ込んで、一皿完食。
桃井作のものだとわかった瞬間、小刻みに震えながらもっしゃもっしゃとかなりスローモーションで咀嚼して、しばし。
ぴたりと動きを止めたかと思えば、もしゃもしゃと普通に食べて飲み込んだ。
「さつき、随分上達したんだね!」
「ほら! ほら! そうでしょ? 赤司くん!!」
「うん、普通に普通だった!」
「そこは美味しいって言ってよ!!」
そうじゃないと憤慨する桃井をよそに、赤司の感想を受けて他の面々も漸く桃井作のおかず達に箸を伸ばし始めた。