紫と勉強

 


「へえ、ミドチンの妹ちゃんに会ったんだ」
「うん。普通の子だった」
「いー子だよねえ」
「兄がああだとやっぱしっかりすんのね」
「いやまあ、単にミドチンがぶっ飛んでるんだと思うけどね〜」

カリカリとシャーペンをノートに走らせながら、向かい合っているにも関わらず、お互いに目線を交わらせる事無く会話する。

珍しくううん、と唸る藍川にようやく紫原は顔を上げた。

「つか珍しくね? 藍ちんが悩んでるとか」
「あー、うん、まあ……。紫原、外国語は?」
「俺ドイツ語」
「ドイツ語か……」
「まあ学科推奨はフランスかイタリアだったんだけどね。ドイツ語が英語と割と近くて勉強しやすいって姉貴に言われて」

あとたまたま赤ちんも空いたトコ一緒だったからさあと零して。
藍ちんは、と言いながら藍川の広げたノートを覗き込んだ。

「中国語?」
「うん……」
「そんな悩むとこまでやったの? 黒ちんと一緒だったよね確か」

彼の頭脳がお粗末だなんて言わないが、彼女と張る程ではない。だから、黒子が悩んでいるそぶりが全くなかったのに、藍川がここまで頭を抱えているなんてと首を傾げた直後。
紫原は全てを理解して呆れたように息を吐いた。

「これかなり先の範囲じゃん」
「あの先生の授業判りづらいしつまんないからめったに出席してないのよ。試験の時しか出欠確認しないから」
「ふーん……で、自習?」
「うん……でもやっぱ限界があるのよね……」

進まない、と頭を抱えた藍川に、ふと紫原の脳裏にとある人物が浮かんだ。
するするとスマホをいじりながら、藍川にいい先生紹介してあげようか、と切り出した。

「先生? なに、中国語得意な知り合いいんの? 赤司とかいらないからね」
「赤ちんじゃないよ。中国語は得意中の得意だよ。発音も先生より断然上手い」
「……そんな知り合いいんのあんた」
「うん。だって中国人だし」
「……私そんなに喋れないんだけど」
「大丈夫。なんだっけ、トリリンガル? ってやつだから。つか、藍ちん会ったことあるよ」

高校二年の時のGW。合宿でのほんの一コマ。
やたらと長身で妙な語尾の、しかし実に助けられた、彼。
ああ、と藍川は朧気な記憶を引っ張り出して頷く。

「迷惑じゃないの?」
「あー、大丈夫だって。女子って言ったら引き受けてくれるし。たぶん」
「え」

それから数秒、紫原はスマホをいじり倒して。
ほらねー、と言いながらくるりと画面を藍川に見せた。
それは某無料通信アプリのトーク画面で、一番新しい発言は、劉の今すぐ行く、と言うものだった。


 





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