思わぬ来訪

 


「保科さん処方箋お願いしますー」
「はいはー……あら?」

受け取った処方箋に記された患者名。

松川一静。

ぐり、と窓口の方を振り向いて見ると、マスクをしている赤い顔の友人が悠長に片手を上げた。
多分、いつもならよう、とでも言っただろう。
代わりに、げほっ、と少々痰の絡んだ咳が出た。

「あんたなにしてんの……!?」
「? 保科さんお知り合いなんですか?」
「え、ああ、高校時代からの友人でね」

首を傾げた受付の子に答えて、また松川を見て、「で?」と問い掛けた。
すると右手をちょいちょい、と動かすので、もしやと思いペンとメモ用紙を渡すと。

サラサラと数行、文を書いてこちらに返した。

松川曰わく。
多分単純に風邪だったんだけど、病院かかるの嫌すぎて病は気から精神で粘ってたらすげー喉の炎症が悪化して掠れるわ痰が絡むわでなんか声出なくなっちゃった。流石にやべえと思って病院来た。薬くれ。
だ、そうだ。

ばっ……馬鹿だこいつ……!!

処方箋をまじまじと見れば、なる程喉の炎症を抑える薬や痰を切る薬が記されている。それから抗生物質か。
あとはまあ鎮痛解熱剤が頓服薬。
ふむ、おかしいところは無さそうだ。

薬を揃えたら他の患者に対してと同じように説明をして、質問は、と訊ねたがゆるく首を横に振った。そうだコイツ喋れないんだ。

しっかり休みなさいよ、お大事にね、と他の患者に対するよりは幾分か心を込めて言ったら、こくんと頷いて帰って行った。

高校時代はスポーツマンたるもの常に万全の状態で体調管理は当たり前だったというのに。
花巻といい松川といい、レギュラー(しかもスタメン)として活躍していたかつての徹底加減はどこにも見当たらず、ただひたすら社会に影響されて自堕落になってしまっているのを目の当たりにして、思わず溜め息が漏れた。


 
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