秘密の訳あり

 


次々に集まったかつての部活仲間達は、あの岩泉でさえ私と同じような言動を繰り返した。
だって誰もが信じられないのだ。

まず彼がいくら一人とはいえこんな高そうなところに住むほど余裕があるのかという事に。そして、それが実は7万円程度しかかからないということに。

全員が揃って酒を開け、つまみをくわえる今でさえその話題で持ちきりである。

「国見ちゃんほんとに無理してない?」
「してません」
「7万とか嘘だろ? いや嘘って言ってくれよ!」
「領収見ます?」
「だってこれで7万って絶対有り得なくねえか……」

いったいどんな手を使ったんだとさえボヤく奴が居る。

それに国見が溜め息をついて缶チューハイを置いた。
嘘じゃないし別に変な手段も使ってませんよ、と。

「ただの訳あり物件です」
「訳あり物件? こんな綺麗なとこがか?」
「はい」
「なに、どーいうやつ?」
「何回か前にここ使ってたOLがベランダから飛び降り自殺したそうです」

淡々と言った台詞に何人かは危うく酒を吹きかけて、何人かはつまみを喉に詰まらせ掛けた。
そんな同輩や先輩達にはお構い無しにあくまで淡々と国見は続けた。

「で、俺が来る前にも事故で転落死してしまった人が居たり、行方不明になってしまったり、そうでなくとも女のすすり泣く声がするとかなんとかでこの部屋だけ入居者寄り付かなかったらしいんですよね」

ちなみに俺の部屋以外の家賃は確か11、2万くらいです。

と、破格の家賃の訳を教えてくれたわけだが。

及川の表情から覇気が無くなり、可哀想に金田一は青くなっていて、矢巾も挙動不審になっている。
他の面子もかなり引きつった表情である。多分、私も。

よくそんなところに平然と住んでいるな……と半ば感心しながらあんたは平気なの、と訊ねてみた。

「幽霊だとかなんとか、信じなきゃ居ないのと一緒じゃないですか」

あとすすり泣くくらいなら勝手に泣いとけって感じだし。

……実はこの面子で一番図太いのは彼なのでは、と思った日であった。
そして、この日以来、宅飲みの話になっても誰も国見の家で集まろうなんて言い出す奴は居なかった。


 
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