居心地いいのが悪い
21時を過ぎた頃こんばんはーと微笑みながら渡の登場である。その後ろには金田一も。たまたま店先で一緒になったらしい。
金田一はともかく、渡は今日もちょっとよれよれになっているあたり、小学生達にあちこち引っ張りだこだったようだ。
「渡お疲れ」
「ありがとうございます保科さん。えっと……お久しぶりです」
「うん、久しぶり。戻って来ちゃったよ」
苦笑いした渡に、同じく苦笑いを返した。
あれ、岩泉さんまだなんですか、と金田一が呟いた時。ガラガラとキャリーを引く音がして、ぴたりと止まった。
「おう、久々」
「おーっ、おかえり岩泉!」
「岩ちゃんおかえり〜お疲れ様」
「保科、お前戻ってきたんだな……」
「やめてやめて、あんたにそう言うマジな顔されるのが一番刺さるからマジそう言うのやめて」
どっかり座りながら、ネクタイを緩める。
飛行機マジ疲れる、と呟きながら生ビールと安定の揚げ出し豆腐を頼んでいて、みんなでちょっと笑った。
それにちょっと訝しげに首を傾げて、キャリーの上に乗せていた紙袋を徐にテーブルに置いた。
「土産」
「これだから岩ちゃん好き!」
「及川ナシな」
「酷い」
「なあなあ開けていいの?」
「おー、好きにしろ」
「わ、抹茶のバームクーヘンだ」
「お前らなんだかんだ甘いの好きだろ」
選ぶの楽でいいわ、とごきごき首を回して鳴らしながら言った。
まあ普通はこういう行為はお断りなのだろうけど、私達の常連っぷりと悲しい趣旨の集まりに今やマスターは寛大だ。
なにげにお土産のおこぼれがマスターに行くし。
切って貰ってきましょうか、と言った金田一に誰とも無く頷いて、とりあえずマスターの手にバームクーヘンは渡り。
戻ってきたバームクーヘンはやはり一切れ無くなっていた。
「ねー、私おかわり頼むけどみんなは?」
「あ、俺カルーアミルク」
「カシスソーダお願いします」
「うーん……ハイボール頼むわ」
「はいはーい」
近くの店員を呼び寄せて、聞いたと自分の、四人分のお酒を頼んでバームクーヘンに手を伸ばす。うん、美味しい。
程なくして可愛い女の子がお酒を運んできた。
「こちらカルーアミルクと、カシスソーダ、ハイボールに、芋焼酎のロックになります」
「ありがとうございまーす」
「保科ちゃん芋焼酎!? しかもロックで!?」
「保科お前おっさんくさ……」
「うるさいよ」
からんと回したグラスを手に、仕事の愚痴を言い合いながら。
今日も夜は更けていく。
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