これでもまだ二十代

 


で、今度はどうしちゃったの、なんて焼き鳥をくわえる及川に、エイヒレをくわえながらふっと薄ら笑い。

「浮気された」
「どこまで?」
「最後まで」
「あ、ご愁傷様」
「相手新卒の女の子だって。笑っちゃうわよね」
「無理すんな保科。ほら俺の豆も食え」
「あ、貰う貰う」

花巻の前のお皿から枝豆を拝借していたら、でもなんか、と矢巾がぽつりと零した。

「保科さんって本当、無いですよね……」
「アッハッハ、シバくぞ」
「ちがっ、あの、男運が……」
「……うん。そうね、我ながらね」

前に付き合った奴はバイで、まあそれはいいんだけど、そん時も浮気された上に浮気相手のオネエに危うく吹っ飛ばされそうになるくらいの修羅場に発展した。たまたま通りかかった金田一の軽トラの荷台に飛び乗って逃げたんだけど。
その前は物凄いオタクだった。それもまあ別に構わないのだけど、なんというかエロゲーマーだったので致す時が物凄く気持ち悪かった。相手が盛り上がるほどこっちの気分が萎えていくイリュージョンである。フった。
中々無い男性遍歴だと思う。ちょっとしたエッセイを書いてみたい気分である。嘘だ。

「しかもあれだろ、保科最近お局扱いされてんだろ?」

マジウケるわ、とにやつきながら言う松川の足をテーブルの下で軽く蹴飛ばしながらうるさい、とウーロンハイを煽る。

「私より年上の職員も居るのによ? 有り得なくない?」
「まー、保科は自分に厳しく他人に厳しくだもんネ」
「今時の若者はついていけないんじゃない?」
「私達だってまだ一応二十代よ……?」
「だって保科ちゃん何気にハイスペックだもん」

羨ましがられてるんだと思いなよ、ときゃらきゃら笑う及川に溜め息。だめだ、こいつもう酒回りかけてる。
他の面子はまだかなあと腕時計に視線を落とした時。

「こんばんは。保科さんお久しぶりです」
「あらっ、国見! 仕事お疲れ様!」
「隣いいですか」
「どうぞどうぞいらっしゃーい」
「国見お前なに飲む?」
「あー……空きっ腹に酒は辛いんで、烏龍茶お願いします」

だる、と呟きながら背広を脱いでぐるぐる肩を回す後輩に勝手に花巻の豆を差し出した。
私が花巻の前から持ってきたのを見ていたくせに、あざす、と無遠慮にもりもり豆に手を付ける。うん、これでこそ国見。

「ちょ、保科てめえ俺の豆」
「どうせ酒以外はあとで割り勘じゃん」
「そうだけどよお……」

今度こそしっかり見た時計の針は、いつの間にか21時五分前だった。


 
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