酒は飲んでも呑まれるな




朝、いつもよりもぼうっとした頭でもぞもぞ寝返りを打った、ら。

「うぶっ!?」

ベッドから落ちた。

いつもこんな端っこに寝たりしないのに、と起き上がって気付く。見慣れない毛布に見慣れない床。ぐるりと見たベッドは、どこからどう見てもベッドじゃなくて知らないソファだった。通りで身体がバッキバキで痛いわけだ。

しかしこの部屋、シンプルではあるけれど、どう見ても男の部屋では……

「あーあ、落ちたかあ。おはよう矢巾。具合どう?」
「ひっ、あっ保科さ、あの俺……!?」
「私ん家が一番近いから勝手に連れて来ちゃったわよ。あんた昨日しこたま飲んでたの、覚えてる?」
「……途中から、あんまり」
「で、しょうね」

あんたみたいなでっかいの運んでくるの大変だったんだからね、なんて言いながらコーヒーを啜る保科に途端に申し訳無くなる。先輩、しかも異性に。この歳になって世話をされたなど。

情け無い、と起き上がって、すみませんでしたと頭を下げて、スーツだったはずの自分の格好が随分くつろいでいることに気づいた。
まさかいくら彼女がいないとはいえ、この人に不貞を働こうとしたのではと青ざめた瞬間、そう言えば、なんて軽い調子で。

「さすがに寝苦しかろうと思ってジャケットとネクタイとベルトとカッターシャツ取ったから。そこ壁にかかってるやつ。シワになっちゃうし」
「……あ、は、はい」
「スラックスはさすがに脱がせちゃかわいそうかと思ってやめたけど」

ケロリとして言う保科に、そうだこの人はそういう人だった、と、昨夜の彼女の一欠片の配慮に内心盛大に安堵した。

それから、トーストでも食べなと自分の分まで用意してくれた朝食にありがたく食卓について。

「そうだ、矢巾」
「ふぁい?」
「無理に返事しなくていいよ食べてて。ただ及川にちゃんと礼言っときなさいね」
「ん…………っく、及川さんに、ですか?」

もりもりとトーストを咀嚼して嚥下して、保科の言葉に首を傾げた。そう、及川に、と頷いて、傍らに置いていた自分の財布を持ち上げて示す。

「昨日の飲み代、私とあんたの分払ったのあいつだから」
「エッ」

慌ててジャケットのところまで行って内ポケットの財布の中を確認すると、確かに全く減ってなかった。
今度返さなきゃ……とボヤくと、それはしなくていいと遮られた。

「格好つかないから、ってどうせ断られるから。今回は素直に奢られときなさい。いつか別のことで返せばいい」
「そ……そうっすか?」
「そうよ。カッコつけしいなんだから。そう言うやつでしょ?」
「……」

なんだか随分な言われようだったが、否定はできず。

「まあそれ食ったら適当に帰りな。駅かバス停かまで送ったげるから」
「ウス……ありがとうございます」
「いーえ」

ともかく、今後は調子に乗って飲むのは止めようとだけ、心に誓った。


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