女らしさ とは




「もー! 馬鹿ね飲み過ぎよ!」
「そんなにのんでませんよお……」

赤い顔でぐだぐだになってしまった後輩に肩を貸してヒールで踏ん張りながら腰周りをがっしりと抱える。

「飲まれるほど飲んでるでしょ! ったくもー世話の焼ける……! 及川、これ、矢巾の分も私の財布から出しといて」
「えっいいの勝手に」
「良いわよ別に。あんたが私の財布に変なことするわけじゃないし、お金はちゃんと今度こいつから取り立てるから」
「そ、そう? じゃあ俺らでお勘定しちゃうね」
「うん。私こいつ外に出すから」

ズルズルと長い足を引きずりながら、よっこらせと外のベンチに放り出す。
冷たい夜風に当たれば多少意識がはっきりするかと思ったが、まだまだ赤い顔でへらっと笑った。
だめだこいつ。

「今日は1人1万三千円でーす」
「はーい」
「にしてもあの子逞しいねえ、昔から?」
「え、保科ちゃんのこと?」
「そうそう。あんたら男ばっかなのにだーれも手伝ってあげないんだから」
「そういうことするからモテ無いんじゃないんですか〜?」
「そうだよ〜そろそろおたくらもうちを儲からせるのやめたほうがいいんじゃないの?」
「ハハ……やっべー、めっちゃ刺さるわ」

それぞれが財布から自分の分を出していく中で、レジを打つ女の子とマスターのセリフが全力で突き刺さる。
確かに、誰も手伝わないばかりか任せてしまい、男ばっかり7人も支払いに残ってしまった。

「ま、保科ちゃんは俺らのお母ちゃんみたいなもんだからね〜」

悪戯っぽく笑った及川は、自分の財布から3人分の料金を支払った。

「矢巾〜ほらあんた自分で家帰ってよ? 帰れる?」
「だいじょーぶです」
「住所どこ?」
「宮城県です」
「広っ! もっと狭いとこで言え!」
「せんだい……?」
「まだ広いし疑問系な! もういいわあんたどうせ明日日曜だし休みでしょ!」

ふにゃふにゃした受け答えしか出来ない矢巾をとりあえず介抱していると、中から出てきた渡がマスターに貰いましたと水をくれた。
握らせてみても飲んでくれる様子はないが、まああとで少しずつでもいいか。

「保科さん、矢巾さんどうっすか?」
「あー、もーこれ全然駄目。私連れて帰るわ」
「えっ、保科が!?」

どっこらせ、と矢巾を立たせ、隣から支えながら1人駅の方へ歩き出そうとする保科を慌てて追いかける、が。

「? なんか不味い? だって矢巾と同じ方向私だけじゃん。あんたらみんな家遠くて可哀想でしょ」

当の保科はキョトン顏で首をかしげるだけで。

「いやいやいやいや、男とか女とか気にしよ!? ましてや酒の入った2人が!」
「ていうかお前も女なら気にしろもっと!」
「はあ? 矢巾を男としてみろってこと? それ私ここにいる全員無理。だいたいあんたらもそうでしょ?」
「残念だけど男は保科ちゃんが思ってるよりチョロいからね!?」
「マジか引くわ」

おそらく世間的にはごもっともな意見をも、馬鹿言うんじゃねえという体で跳ね除けられる。

「でも矢巾さんがモテないあまりに保科さんに優しくされてうっかり襲ってきたらどうすんすか?」

そこで、酔っ払っている矢巾に失礼だとか思ったりしているのかは別として、今まで誰も言わなかった直接的な例えを国見が出した。

が。

「どこをどうするとは敢えて言わないけど一撃で沈めた上に終電も終バスも無くかつタクシーも滅多に通りがかってくれない家の前の通りに身一つで放り出すけど?」

なんの迷いも淀みも無くスラスラと言われたセリフに、何故か全員身の危険すら感じ、かつ保科の本気を受け取り、もはや何も言わずにあとは財布を返して呆然と後ろ姿を見送ったのだった。

「……あんなだから最終的にモテねえんだよなあいつ」
「岩泉っ」
「シッ」


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