YESイメチェンNOT若作り

 


「いらっしゃませ〜。あっ、及川さんですね、もうすぐ空きますので此方でお待ち下さい」

お洒落な店内に入ると、受付に立っていた店員ににっこりと営業スマイルでそう言われたので、おとなしく従った。
すっかりこの店の誰にも、私は及川の常連客だと認識されているらしい。
悪いことでなければ不満でもないのだがなぜかどうも微妙な気分になる。

それは、多分。

「ありがとう〜またねっ」
「ハーイありがとうございました! またお越し下さいませー」

及川の常連客の大部分が、近所のマダム……もとい、おばさま方だからだろう。

(私も同じくらいに老け込んだ気分になるんだわ……きっと)

「おっ待たせいたしました〜保科ちゃん! 何か飲む?」
「ううん、いらない」
「そ。じゃあ今日はどうしましょーか」

鏡の前に座って、テキパキとタオルやらなにやらを巻いていく。ふと、鏡越しにその手を見てみた。

「手、綺麗になったわね」
「あっ、うん! 保科ちゃんのおかげでね〜! ありがとっ。んで、どーしよっか? いつも通りでいい?」
「ううん。いつもより短く切っちゃって。それ以外は及川のセンスに任せちゃうから」
「アララッ、イメチェンすんの?」
「……うん、まあそんなとこかな。近頃鬱陶しく感じちゃって」
「フーン……まあスッキリしていいカモね。そんじゃ気合い入れていきますか」

フンヌフーン、と相変わらず、ちょっと調子外れな鼻歌を聞きながら身を任せた。

「あー、若い髪の毛触んの久々な気分」
「……なにそれ」
「いや最近来てくれる常連さんマダムばっかでね……俺の常連で一番若いの保科ちゃんだから多分」
「うわ……」

シャキシャキと小気味のいい音を聞きながら、約一時間後。

「うわー……自分でも違和感」
「色が重い分ちょっと軽めにしたんだ〜。あんまカッチリしちゃうと老けて見えちゃうし」
「やめて言わないでそれ禁句だから」

髪型の保ち方を少し聞いて、またねと笑う及川に笑い返して店を出た。
ウィンドウに写る自分を横目で見て、うん、悪くないなと思いながら。


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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