友人関係に性差など無いのだ

 


奥まった路地の先にある、カラカラと音を立てる引き戸を開ける。
中にいた何人かは私を見て訝しげな顔をしたが、カウンターの奥から顔を見せた彼や、顔見知りとなっている数人は人の良い笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃあい、真澄ちゃん! 最近来てくれなくて寂しかったわよ〜!」
「ごめんねー、なんか色々忙しくって。でも今日は私目一杯飲んで帰っちゃうから! ミキちゃんも一緒に飲んで飲んで!」

一番奥の目立たない席に座る。そこは、彼が私のためにといつもキープしてくれるようになった席だった。

ミキちゃん――本名霧島幹久――は、一度一悶着のあった、例のクソヤローの浮気相手だった。

「なんか新しい子入ってるの?」
「あらっ、気が付いた?」
「気付くよー、私も常連だし! ミキちゃんと仲良く慣れたことだけはクソヤローに感謝しなきゃね」
「うふふ、ホントね。はいっ、あなた好きでしょ? 奢ったげるわ!」
「あったこわさ! ありがとう〜」

野太い声にも慣れたし、他の店員や常連らしいお客さん達も良い人たちで。彼が私を店に入れた事情を(感極まって涙ながらに)話始めた時はギョッとしたが、なんだかんだみんな私を受け入れてくれたわけである。

「でも真澄ちゃん、ウチに来ちゃったってことはいい人居ないの〜?」
「うっ……うん……別れちゃった……」
「あらっ」
「しかもまた浮気で……」
「まぁーっ! とんでも無いわねえ」
「ホントホント。やっぱダメなんだなあ私。友達は見る目あるつもりだけど男はてんでダメだわ」
「お友達って、軽トラの子?」

あの子可愛かったわね、と呟く。金田一の事だろう、よく見てたなあと内心苦笑しながら、あれは後輩、と言い添えた。

「友達に恵まれすぎてみんないいやつに見えちゃうのかなー……」
「あらま、贅沢な悩みねえ」
「切実よぉ。一見チャラチャラしたイケメンのくせに周りのことよく見てたりとか、もうホントおっとこ前で言うことナシのやつとかさぁ」
「うんうん」
「そういやこないだ調理師の友達と宅飲みしたらさ、家では生野菜ばっかかじってるとか聞いたもんだからもうどうしようもないったら」
「まっ、それはだめね。それで?」
「もー、私達もびっくりして……ね」

ほんのすこし特別な時間、特別な空間、特異な私。
グラスのお酒を揺らしながら、私の夜は更けていった。


 
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