そういうお年頃?

 


結局、国見は30分程で、烏龍茶を飲んで皿に積まれた肉を平らげた後、「後輩が使えないんで会社戻りますすいませんお金今度払います」と言って去ってしまった。
去り際にサービス残業とか爆発しろよと呟いていたのもしっかり聞いてしまって切ない物がある。
後輩も着実に社会の荒波に揉まれている。

さて、そんな切なさに浸りながらお酒を傾けていると、不意に左手を握り込まれて肩が跳ねる。
犯人は酔いが回りつつある及川だった。

「ちょっと及川。なに?」
「んんー……保科ちゃん手綺麗だね。スベスベー。羨ましいよ」
「は? あー、あんたかさついてるね」
「そうなんだよー! 油が抜けちゃって……年? 俺ももうそろそろオッサンかな???」
「なに言ってんのあんたはある種職業病でしょ」
「なんか昔から使ってたクリーム塗ってんだけど保湿が追っ付かないんだよね」

時々切れちゃって痛いんだ、と泣き真似をする及川の指先は、確かに高校時代に比べれば荒れている。
他より水に触れることの多い職業柄の所為だろう、所々ささくれているのが見える。

泣き真似はウザかったが、それはそれで可哀想なので、バッグから少々へこんだチューブを出して彼の手に握らせてやった。

「それあげる」
「? ハンドクリーム?」
「うん。私が使ってるやつ。うちの職場で取り扱ってるの。中々のお値段するやつだけどいい働きはしてくれるよ。試しに使ってみて」
「いいの?」
「私また明日職場で買えばいいから。具合良さそうだったら、言ってくれたら安く買ってあげるよ」
「わーっ、ありがとう! 保科ちゃん信じて使ってみる!」

早速それを手の甲に伸ばし始めた及川を横目に見て、また酒を傾ける。

「すっごく具合良さげ!! またお願いしますっ」という文章と一緒に、幾分か荒れの引いた手の写メが送られてきたのは、それから三日後のことだった。


 
[ 11/21 ]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -