02
女子高生と呼ばれる生き物の半数以上は、16歳を過ぎている。
それは、日本という国が定めた法の上で結婚することを許された女性がそれだけいるということで。
そして、そういった類の事には男性よりも女性の方が早熟なものであった。
が。
「女の私が言うのもなんだけどさ、世の中の女ってみんな理想高すぎだよね」
「うん、まあね」
「なんだっけ、イケメンで優しくて背が高くて……?」
「気が利いて稼ぎのあるやつ」
「いないいない」
放課後の教室でお菓子を広げ、指折り数えてはけらけらと笑った。
理想というのは世の中に存在しないから理想なのである。
と、思ったが。
「……あれ、うちのクラスいるじゃん」
「え、うそ」
「いたか? そんな完璧なやつ」
「いないいない」
「いるって! まあ稼ぎはまだわかんないけど、顔がよくて頭良くて性格良くて運動もできて背も高いやつ」
「誰それ……?」
このクラスにそんな男子いたっけ、と顔を見合わせ首を傾げ合う友人達にもう、と痺れを切らして。
「水戸部だよ水戸部!」
「ああー……」
「水戸部か……いやでも水戸部喋んないじゃん」
「それな。小金井いないと意思疎通出来ない」
「は? そんなことないよ何と無く言わんとするところはわかるよ雰囲気と勘で」
「それはわかるって言わない」
「家庭科の調理実習めっちゃ美味いし」
「あ、それはわかる」
「!! でしょ!?」
「そうなの?」
「超美味い。あたしあれで自信なくした」
「へえー」
料理上手いのはいいなあ、と、さっきまではあれ程に否定されていた自分の意見が肯定されつつあるのに満足したのだろう。
踏ん反り返りながら、彼女は。
「ほら! やっぱ結婚するなら水戸部だって!」
思わず叫んだ瞬間、どさどさと重たい音がして、振り向く。
「あ」
「あーあ」
「ばか」
「……えっ、と……忘れ物?」
精一杯の平常心でへらりと、赤い様な青い様な顔色をした彼に笑いかける、が。
「……っ」
「あっちょっ、待ってごめん違う違わないけど違う待て水戸部!!」
落とした荷物もそのままに廊下へ飛び出して全力ダッシュで去っていく水戸部。
そして、それを追って彼女も教室を飛び出して駆け出した。
……無事に水戸部を捕まえられた時にする言い訳と、捕まえられたにしろ捕まえられなかったにしろこの後友人たちの元に戻った時にする言い訳を、必死で脳裏に組み立てながら。
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