02




放課後、生徒の少ない校内の、多目的室。
しゃかしゃかとシャーペンが紙の上を滑る音が響いていて、それ以外は外から運動部の掛け声だとか、音楽室から漏れている吹奏楽の音だとか。話す必要もないのだから息苦しい沈黙ではなかったけど、他学年の異性と二人だけの空間というのは中々に落ち着かなかった。

「谷地さん」
「はっ、はいっ!?」
「あ、ごめん。集中してたの邪魔した?」
「いえっ、大丈夫であります!」
「(あります……)や、うん、ほんとただの雑談で悪いんだけどね」

くるりと手元のシャーペンを一回転させて、彼女の手許を見た。
つい30分前には真っ白だった画用紙は、すっかりしっかり、ポップな絵柄が描かれている最中だ。
たまたま廊下で見かけただけだけど、彼女を捕まえて正解だった。
自分ではどうもこうはいかない。脳内イメージは完璧なのに。

「ごめんね。せっかくの放課後に委員会の雑用とかさせちゃって」
「いえ、その、委員会ですし、大丈夫です」
「でも今は放課後暇じゃないっしょ?」
「え」
「男バレ入ったって聞いた」
「え」
「俺、田中とか西谷とかあの辺と仲良いのね、実は」
「え……!」

そんな驚かなくても、とケラケラ笑った先輩と、あの賑やかな先輩達がどうもうまく結びつかない。だって、後から考えれば失礼なことだったけど、どうもこの目の前にいる先輩はあの2人ほど活発には見えないのだ。
部活や委員会の接点もない。

付け加えるように、去年から田中と同じクラスなんだよね、と笑った。

「マジで谷地さん捕まえられて良かった〜。委員長に押し付けられたけど俺美術は2までしか取ったことないんだよね」
「2……ま、まで?」
「うん。笑っていいよ」
「へっ、あ、アハハハハ……」
「うん。ごめん、無理に笑わなくてもいいんだよ」

喋りながらもしゃかしゃかと手を動かしてくれていて、既に委員会の文字のレタリングをしてくれていた。
俺の仕事はこれを先生に見せて印刷してもらって貼り出すだけ。なんてお手軽だろう、明日の放課後は校内の掲示板ツアーだな。

運動部は結構遅くまでやるもので、仕上げに入っているこのポスターが描き上がっても、多分彼女は第二体育館に行くだろう。

「でっ、出来ました……!」
「おっまじか。お疲れさま! おーっ、すっげ、ありがと! よっしゃ、掲示板の一番目立つとこに貼ったろ」
「えええそんな……!?」

まさかの発言に恐慌を来しても、本気なのか冗談なのかよくわからない笑みを浮かべて、お知らせポスターは目立たないとね、と口角をつり上げた。

「まーまー、あとは俺の仕事だから。わざわざごめんね、部活行って大丈夫だよ」
「あっ、はいっ、失礼します!」

律儀にもぺこりと頭を下げて、リュックを背負って行く小さな後ろ姿を見送り掛けて。あ、と咄嗟にポケットに手を突っ込んで引き止めた。

「待って谷地さん!」
「ふぁい!?」
「あっ、ごめんそんなビビんないで……はい、なんてことないただの飴ちゃんです」
「へっ」
「お礼。あと、頑張れ新米マネージャーって激励」

ニヤッと笑って、もう何度目だかわからないありがとうと言う言葉を告げて、反対方向の職員室の方に小走りで去っていった。

もうすっかり空気が涼しくなった今日この頃、先輩に貰った飴玉は少し、暖かかった。


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