烏野女子と。




「あ」

ひら、と足元に落ちた一枚の紙を拾い上げると、賑やかな色で描かれた「マネージャー募集」の文字。
前を行く、多分おそらくこれを落としたんだろう人は、それに気づいてはいなかった。

「清水先輩」
「?」
「これ、落としましたよ」
「あ……! ありがとう」
「いえ。後継者探しですか?」
「後継者……って言うと、なんだか大袈裟」

でもそうだね、と笑って渡された紙を受け取った。
賑やかな後輩たちとよく一緒にいるところを見かける男子。
部活に所属していないらしい彼が人の少ない早朝の校内に居るのは、多分手に持ったバインダーが理由だろう。委員会の当番らしい。

「来年は私は居ないけど、選手のサポートはこれからも必要だもの」
「そうですよね……まさか清水先輩が卒業しても来ていただくわけにもいかないですし」
「それは無理」
「田中と西谷なら泣いて喜ぶと思いますけどね」

けらけら笑いながら、むしろあいつらなら泣くどころか喜びのあまり天に召されるかもしれないとすら思ってしまった。

それじゃあ私これ校内に張ってくるから、とポスターの束を抱え直した彼女に、ふと時計を確認して。

「手伝いましょうか、それ」
「え?」
「俺、委員会の関係で掲示板の空いてるところ熟知してるんで。清水先輩の届かないところは俺が張りますし」
「……わかった。ありがとう、お願いする」

部外者なのに申し訳ないとは思ったけど、案外学校は広いし、掲示板の空きスペースなんて場所によって疎らだ。
人の少ないうちに終わらせられるよう、彼の言葉に甘えることにした。

「なんなら、マネージャーやってみる?」
「えっ、俺がですか?」
「うん。出来そう」
「それは勘弁してくださいよ〜。野郎に世話されたい選手も居ませんって」

まあ女子マネがいるのなんてバレー部くらいだけど、なんて。

冗談、と小さく笑う清水に、こんなところあの2人に見られたら俺生きてられないなあなんて。あながち大げさでもなさそうなことを一瞬だけ思い浮かべて、しかしそれも頭の隅っこに押しやりながら画鋲を押し込んだ。


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