03
昼休み、売店から戻ってきた彼女は非常に複雑そうな顔をしていた。
「変な顔してるけどなんかあったの?」
「山本くんに遭遇したのですが」
「……? うん」
それがどうしてそんな顔になるのか、と二人揃って首を傾げた。
ふと教室の入り口に目をやると、見慣れたフワフワが見える。
……また隠れて話聞いてる。
……今度は一体なにをした。
思うところはそれぞれだったが、彼女の話を聞くために向き直ると。
「話しかけたらいつも以上に挙動不審になり更にはなんか目に涙をたたえてヒロインよろしく走り去ったんだけどあんた達山本くんに有る事無い事吹き込んで無い?」
「「あー……」」
ついにやったか、というのが二人の感想だった。
別に二人はなにもしていないしなにも言ってない。
おそらく、むしろだからこそ、なのだろうが。
先日の、なぜ山本だけが呼び捨てでないのか、という話のせいである。
結果的に対した理由ではなく、単に山本が悪かったと言えば悪かったのだが、その理由を聞かずじまいの山本がこの世の終わりのような表情をしていたのは記憶に新しい。
やはり二人は顔を見合わせ、やれやれとばかりに小さくため息をついた。
「俺たちはなにもしてないよ」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「信じるよ?」
「どーぞ」
「じゃあ一体何が山本くんを奇行にはしらせるの……」
「さあ……持って生まれた性質じゃない?」
たしたしとゲームにいそしみ始めた孤爪の返答は最早適当極まりなかった。
福永の興味すらそのゲーム画面に向かってしまい、それに気づかないわけがない彼女は不満気な表情を作り、ため息をついた。
「山本くんたら、どうやって共学で生きて来たのかな……」
そんな呟きも、言外に興味がないという二人に拾われること無く消えて行ったのだった。
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