02
「ねーねー孤爪、飴ちゃん食う?」
「あぁ……ありがと」
「どいたま。福永もいる?」
袋ごと差し出されたので、遠慮無く手を突っ込んで、カラフルな個包装を一つ取った。
隣で彼のゲームを覗いていた福永も、同じく一つ。
残りの飴の数を見て、それから少し離れた所にいるモヒカン頭をちらりと見やり。
「山本くんも食べるかなあ……」
とボヤく。
その言葉に孤爪と福永は顔を見合わせて、次の瞬間、福永がフルスイングでさっき取った飴を山本に向かって放り投げた。
「ギャーッ!?」
「oh……中々アグレッシブだね福永……」
見事、その飴は山本の額の真ん中に命中した。
やりきった顔をする福永に飴を渡すのを見て、ふと首を傾げた。
「そういやさ……なんで虎は呼び捨てじゃ無いの?」
彼女が自分達を呼ぶ時は孤爪、福永、山本"くん"だ。
他の男子も殆ど呼び捨てているにも関わらず、である。
同調するように福永にも首を傾げられ、顔を背けながらもにょもにょと口を開いた。
「あー……その、嫌いとかじゃないんだよ」
「だろうね。じゃなきゃわざわざ虎に構わないでしょ」
「しかしあの、あそこまでキョドられると私もどうしていいかわからんというか」
うっかり呼び捨てとかしてうっかり調子のんなってシメられたりしたら立ち直れないっていうか怖いし……いや山本くんがあんな見た目でも実はいい人って知ってるつもりではいるんだけどさ……。
山本をよく知る二人からすると、結論から言えば、それは無いよと言う話だった。
異常に女子に慣れておらずに挙動不審になっているだけであり、女子相手ならシメるどころか彼の方が脱兎の如く逃げて行くだろう。
まあ確かに、山本くん、だったのが山本、と敬称を無くすことによって距離が縮まったかのように思った山本が暴走する可能性は否めないが。
ちらりと山本を見る。
どうやら今の話を聞いていたらしく、呼び捨てられない理由が聞こえなかったのか、勝手に色々考えているらしい。この世の終わりのような顔だった。
孤爪と福永は再び顔を見合わせる。
山本の挙動不審の真相を彼女に、彼女が呼び捨てられない理由を山本に、教えても良かったが。
孤爪は面倒だったので、そして福永はそうした方が面白そうだったので。
まだ暫くは、黙っておくことにしたのだった。
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