音駒二年と中だるみ

 


新学期、なんて言葉がキラキラ輝いて見えるのは一年の始めだけである。

「あ〜、弧爪と福永と山本くんじゃん。おはよー」
「おっ……! おおおおう!」
「はよ」

くわぁ、とあくびをしながらの挨拶を気にも止めない様子で、ぺこりと頭を下げた福永と、同じく眠そうに短く言葉を返した弧爪と、それからこんな女子にさえ挙動不審になる山本にちょっと笑った。

「宿題やった?」
「当たり前……」
「あっ、福永もなに言ってんだみたいな顔してる……そーだ、弧爪さあ甘いの好きだったよね」
「え……う、うん」
「さっきコンビニで貰ったんだけど。食べない?」

指定金額以上の買い物をすると引けるくじで、私は見事当たりを引き当てた。アップルデニッシュだった。

「! ……食べる」
「はい、あげる」
「……ありがと」
「いいえ〜。あれ、福永どうしたの?」

突然ガサガサとバッグをあさり始めた福永に、何か忘れ物でもあるのかと訊ねると。
ふるふると首を振って、それからちょっとくしゃくしゃになったコンビニ袋を取り出して。

「え……! な、なに」

ずいっと弧爪に差し出した。

恐る恐る彼が開いたコンビニ袋の中身はと言えば。

「……アップルデニッシュだ」
「……?? くれるの?」

こくんと頷いた福永は、どうやら私と同じ経緯でそのアップルデニッシュを手に入れたらしい。

満更でも無さそうな顔で、ありがと、と2つのデニッシュを入れた袋をリュックに突っ込んでいた。

それを見ながらひっそり、なんか餌付けしてるみたいだね、と福永と小さく笑った。

「あれ、そういや山本くんは?」
「え、知らない」
「ええ……あっまだあんなとこにいる。おーい山本くん、教室行かないのーっ?」
「ッファッ!?」
「先行っちゃうよー」

それでも中々動かない山本に首を傾げる。
が、既にiPhoneでゲームを始めてしまった弧爪と、一度だけちらりと彼を振り向いた福永と。
二人から、いいよほっといて、との言葉を受け、だらだらと教室に向かって歩き出した。


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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