02

 


毎年この時期にある地元の祭り。
あいにく一緒に行くような相手はこの方居ないが、中学の頃から、毎年必ず行くところがある。

「おじさーん!」
「おう、いらっしゃい!」

待ってたよ、とニカッと気前のいい笑顔を見せてくれた屋台の主人に、こちらもニカッと笑い返した。

中学の頃からの同級生の実家の屋台。

正真正銘の八百屋さんの出すこの屋台の冷やしきゅうりが格別なのだ。

「おっ信介」
「ん?」
「あれ、お前」

おじさんの言葉にぐる、と振り向くと、八百屋の息子。
もとい、中高の級友であり、私が毎年この屋台に通うきっかけになった張本人、木村信介が居た。
うん、捻りはちまきとはっぴが良く似合うことだ。

「よう木村。御神輿担いでたの?」
「おう。親父と近所のおっさん達に半ば無理矢理」
「似合うじゃんウケる。写メっていい?」
「やめろ」

構えた携帯をぐっと下げられ(本当に撮る気は無かったけど)、そんでお前はなにしてんだなんて愚問。

「見てわかんない?」
「……お前またうちのキュウリばっかり食ってんのか。宮地でさえパインの方買っていくぞ」
「あいつあの顔だけど甘党じゃん」

瑞々しい緑色に歯を立てれば、カリッと小気味良い音がした。
続けてボリボリと咀嚼しながら、なにかもの言いたげな木村に向かって首を傾げると。

「はあ……」

こぼされたのは深いため息である(失礼すぎだろ)。

「らにほ」
「お前……なんかなあ……」
「んっ……だから、なによ」
「宮地の事残念とか言う資格ねえぞ」
「キュウリ美味いよ」
「だろーよ」
「うん」

ボリボリボリボリ、やはり人の顔を見て溜め息を吐く失礼極まりない木村と向かい合ったまま、ペロリとキュウリを平らげて。

振り向いて、おじさんにもう一本貰った。

「まだ食うか」
「食べるよー。木村も食べたら? 冷たいし美味しいし水分とれるし。あと祭り回ろ。射的やりたいんだよ」
「お前いっつも最後俺に投げるだろ」
「木村地味に上手いから地味に」
「二回も言ってんじゃねえ」

ニヤニヤと含み笑いのおじさんにキュウリを貰う木村を急かして、祭りの喧噪の中、射的の屋台を探した。


 
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