秀徳三年と夏祭り

 


見渡す限り人、人、人。
地元のお祭りだからと少し気を抜いていたのが、どうやら間違いだったらしい。
これではクラスメート達と合流出来るかどうか、怪しいものだなと、額にじわりと滲む汗を拭った。

8月も半ば、蒸し暑さの増す日々の中のほんのちょっとの癒やしだ。
涼む、という単語からは程遠いが、夏を満喫する定番の盆踊り。

櫓が立ち、周りには出店屋台が立ち並ぶ。

こんなに周囲が賑わっているというのに、クラスメート達の姿は一向に見当たらない。
どうしたものかと思ったとき、携帯がふるえて連絡が来た。

「えっ、待ち合わせ場所変更……っ!?」

思わず叫んでしまって慌てたが、辺りの喧噪に紛れたらしく誰に振り向かれることもなかった。
が、再度示された集合場所が、今居る場所から正反対の場所。
とてもじゃないが、この喧噪の中を割り込んですぐになんて行けようもない。

仕方なしに、私のことは待たなくていいよと返したが、さて、どうしよう。
なんだか一気に疲れてしまったので帰ってしまおうかなんて振り向いた先。
人混みの中、頭一つ出た見慣れた長身。

「……大坪?」

恐る恐るだった私の声を拾ってくれたらしい彼は、振り向いてなんだ、偶然だなと笑った。

「こんなとこで会うとは思わなかったよ。引退しないって言ってたから、練習漬けかと」
「おう、今日も練習だったぞ。ただたまたま、帰りに近くを通ったら高尾……ああ、一年なんだが、そいつが行こう行こうとテンションを上げてしまってな」
「ひゃー、元気だね〜。それで来たの?」
「宮地なんかはふざけんなって言ってたけどな。結局ペースに巻き込まれて高尾と一緒に祭りに突っ込んでいったよ」

けらけら笑いながら、逃げた後輩くんを追い掛けて祭りの喧騒に紛れた宮地の話をする。多分、それ自体がアイツの作戦だったろうになあ、なんて。
まるで部長と言うよりは保護者だな、と思いながら、それなら他の面子はどうしたのかと訊ねると、この喧噪ではぐれたらしい。

「で、お前は? 一人か?」
「寂しいことをズバッと言ってくれるなあ……クラスの子達と来てたんだよ。でも、集合場所を間反対に変更されちゃってね」

なんか気がそがれちゃって帰っちゃおうかと思っていたところだと、苦笑しながら白状すると。

「じゃあ一緒に回るか?」
「えっ」
「せっかく来たんだからなにもしないと損だろう」
「え、でも大坪、他の部員は?」
「もう帰り道だからな。わざわざ俺が引率しなくたっていいだろ」

な、と朗らかに笑った大坪に、こんな小さな喧騒の中、いつ、合流し損ねたクラスメート達と擦れ違うかわからないのになと頭の片隅で思いながら。
誘ったのは私じゃなく大坪だから、と誰にともなく言い訳をしながら。

チラリと隣の屋台を見て。

「じゃあまずかき氷食べよ!」
「お、いいなあ、俺はみぞれかな」
「えー、メロンが美味しいのに。おじさん、みぞれとメロン下さい!」
「はいよー」

8月半ば、夏休み。
こんな思い出があっても、いいものでしょう?


 
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