06

 


「しっつれ〜しま〜す……」
「……普通に入って来いよ」

リサイクルショップの扉をそろそろと開けると、店主の烏養が呆れた顔で私を見ていた。
なんか売りに来たのか、と訊ねられたが、私の視線は彼の肩の向こう。
良く似た顔の、しかし見慣れない(やっぱり)カラスが居た。

首を傾げて動かない私に気付いた烏養が、ああ、と思い出したように少しそのカラスを振り返って。

「そうか、村長知らなかったな。ありゃ俺のじいさんだ」
「おっ、おじいさまでしたか……!」

道理でよく似ていらっしゃる、とは言わなかった。

「おう、なんだ嬢ちゃんが新しい村長だったのか」
「えっ……どこかでお会いしまし……た……あ゙っ!?」

ニカッと笑ったカラスの声には、聞き覚えがあった。
それに、私を"嬢ちゃん"、なんて呼んだのはこの村で一人だけだ。

ひと月くらい前、初めて村長として公共事業をしようとした日。役場の前で、私のおでこを傷物にしてくれた村民。
顔は見なかったが、どうやらそれが彼らしい。

「じいさんは今までちょっと入院しててな。まあ退院したてだが、やるっつって聞かねえからな」
「やる……? とは、なにを」
「家具のリメイクだ。嬢ちゃんもなんかテキトーな家具持ってきたら、好きなようにリメイクしてやるよ」

まあ出来る家具と出来ねえ家具はあるけどな、と言った彼の言葉に少々期待に胸が膨らむ。
室内のレイアウトの幅がぐんと広がりそうだ。

そう思ってワクワクしていると、ところで、なんか売りに来たんじゃねえのか、それとも買いに来たのか、と言った烏養の言葉にハッとして、慌てて持っていた包みを差し出した。

「これっ、うちの実家でとれたオレンジのタルトなんです! 甘いものはどうかなとも思ったんですが、宜しかったら……!」
「……ん、なんだ、引っ越し挨拶みたいなもんか」
「えーっとまあ……そんなもんです」
「気ぃ使わせちまって悪いな、ありがたく頂くわ」
「ありがとな、嬢ちゃん」

同じ顔で二人がニカッと笑った。

その言葉と表情に安堵の息を吐いて、じゃあまたリメイクしたい家具とか、商品の入れ替わりとか見に来ますねと言って店を出る。
外に出て、ぐるりと当たりを見回して、村を回って家に戻ろう、とまずは浜の方に足を伸ばす。

浜辺にはシャコガイを探す仁花が居たり、潜ってきたらしい西谷が居たり。釣り糸を垂らす東峰や、ヤシの木を揺らす山口が居る。
また浜から上がれば、今日も虫取りに精を出す日向と影山が居て、村のあちこちの花に水やりをする菅原が居る。

そうして、すれ違うみんなが笑って声をかけてくれる。

拝啓、母上様。
最初は、ただ引っ越して来ただけなのにいきなり村長任命されちゃったりして、なんだかえらいことになっちまったと思ったりもしましたが。
幸い村の人達はみんな優しくていい人(いやカラスか)ばかりです。
そんなわけでなんやかんやうまいこと、元気でやっています。敬具。


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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