03

 


人間の適応力や順応性とは素晴らしいものだ。
私は実にそう思う。

無事に建てられた我が家の前に植えた金木犀の苗に水をやりながら、今日は仕事するかと真南にある大きな施設をぼんやりと眺めた。

「おはよう」
「あっ、潔子ちゃんに仁花ちゃん、おはよ」
「あ、あの、村長さん……」
「ん?」
「……じょうろからお水、出てませんよ」
「ア゙ッ」

……なんて事もあったが、無事に水やりも終えて。
私は例の施設……まあ、役場の前に居た。

自分のゆがんだ運命など受け入れたくないものだが、受け入れなければならないのだろう。
意を決してドアノブを捻った、ら。

「へぶっ!」
「ん?」
「ああっ、村長さん!!」

ドアの方から迫ってきて、正面衝突。

あまりの痛さと衝撃にへたり込むと、中から武田の慌てているらしい、バサバサと羽の動く音がする。が、それ以外にもどうにもなにやら物の散らばる音がするので落ち着いてくれ武田氏。

ぐぬぬ、と唸ると、おう嬢ちゃん悪かったな、大丈夫かと言いつつばすばすと頭を撫でられ(?)た(いややっぱり叩かれたかもしんない)。
視界の端の黒い色、バサバサと武田以外の羽の音。
やっぱりこの人もカラスかよ、と思いながら大丈夫ですと絞り出して立ち上がる。

今度から気をつけろよなんて私に扉の角を命中させた張本人に何故か注意されてしまったが、何故か私もはいすみませんでしたと謝ってしまった。小心な己が憎い。

ともかく、何故か私より焦っている武田を落ち着かせてからカウンター奥の机にすわってみた。

おお、ふっかふか……!

「村長さん、来て下さって嬉しいです! ここに来たって事は、早速村のお仕事を?」
「ええまあ……橋をね、もうひとつ架けたくて」

なんてったって不便で仕方ないのだ。
橋が一カ所だと。ぐるぐるぐるぐる、いちいち大回りしなきゃならない。

「了解しました! 石造りのと吊り橋と、どちらにしますか?」
「あー、石造りにしましょう。この村は元気な人たちが多いみたいなんで、踏み抜かれちゃやだし……」
「……それはそうですね! じゃあ早速行きましょう!」

にこっと朗らかに笑った武田を伴って、川沿いを歩く。
今の橋が南の方に有り、川は北から南へ流れているので、なるべく北側に新しい橋を掛けたい。

そう思いながら歩くと、なんとまあ、「ここに橋を架けろよ」と言いたげな絶妙なポジションを発見したので早々にそこに決めた。

どこからともなく武田が取り出したハニワくんがその場所に据え置かれ、それでは僕は役場で細々とした手続きをやっておきますから、と去ってしまい。
通りかかった東峰が「完成したら村が歩きやすくなるなあ」と早速募金してくれた。初対面では悲鳴を上げて申し訳なかったと思う。

そうして、ふうと気を抜いた瞬間。

「村長ーーーっ!」
「村長村長ーーーっ!!!」
「ヒッ!?」

土煙を上げて掛けてきた二人組に逃げを打つも、やたら脚が速く(カラスのクセに!)、ガッシとそれぞれに手を握られてしまった(カラスのクセに……!)。

「あんた、いい村長だな……!」
「は……あ、あの」
「俺達の貯金だ、ぜひこの橋造りに使ってくれ!!」
「え……あ、ありがとうございます……?」

混乱するまま言われるがままに二人からのカンパをハニワくんに引き渡し、なんと橋造りのお金は集まった。
な、なんなの一体……。
スキップして去っていく二人を呆然と見送っていると。

「……向かいが田中さんと西谷さんの家で、そこがあなた達の家で、あの二人、清水さんの信者みたいなモンだから。橋が架かれば会いやすくなりますからね」
「…………oh」

おかげで僕達は1ベルも出さずに過ごしやすくなりましたけどね、と月島が私の後ろをわざとらしく笑いながら過ぎていった。


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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