02
なにがどうしてこうなったのか、とリンゴジュースを飲みながら思う。
ちなみにこの村の特産品がリンゴなんだそうで、このジュースはそれで作ったそうだ。おいしい。
…………ではなく。
「まさか新しい村長さんがこんな若い女の子とはなあ〜いやー、楽しくなるね! よろしくね村長さん!」
「おい嶋っち絡むなよ」
「絡んでねーよ宣伝だ宣伝! 嶋田マートをどうぞご贔屓に、ってな!」
「はあ……よろしくお願いします」
私が村長であることに対して誰もなにも疑問がないのか。いいのか私が村長で。あなたたちはそれでよろしいのか。
「新しい村長は若いし女の子だしものわかり良さそうで安心したぜ。結果オーライじゃねえか坊主共」
「「アザーッス!」」
「こらお前ら! 滝ノ上さんも止めて下さい!」
私の心の中の疑問を笑い飛ばす滝ノ上とそれに答えた元気の良い二人に、大地さんとやらが青い顔でお叱りを飛ばす。
私の両脇を固めてくれていた潔子と谷地をつついて、前の村長についてこっそり聞いてみたところ。
「あっえとっ私知らないんですスミマセン……! 私もまだ最近越してきたばかりで……! その時はまだ新しい村長が決まって無いって言われて……すっスミマセンンンン」
「あっいやっ、大丈夫! 大丈夫だから仕方ないことだから仁花ちゃんが謝らないで!」
「二人とも落ち着いて。前の村長はね、融通の利かない人だったのよ」
「へえ……頑固一徹! みたいな?」
冗談混じりに首を傾げてみせると、潔子はそれなら、その程度ならこんな事にはならなかったわね、と小さく息を吐いた。
えっ、どういう人だったんだ前の村長。
「外から見て、村がよく見られるようにって事にしか興味が無かったのよ。だからまあ、うちの村は元気の有り余ったのが多いから、ちょっと窮屈でね。憂さ晴らしにって日向達がボールで遊んでたら、見回りをしてた村長に気付かなくて。取り損ねたボールが村長に思いっきりぶつかっちゃったの」
「えっ……まさか前村長って、それで死っ……?」
「ううん、元気に南の島にいる。ただ……」
そこで潔子は一度言葉を切って、澤村の方をチラリと見た。
それから、私と谷地をくっつけて、潔子自身も顔をずいっと寄せてから。
「……村長のカツラ、飛ばしちゃったのよ。それで村長、ショックで止めちゃったの」
「えっちょっ、ヅラ……っ? ブフゥッ」
「シッ! 最近澤村、それで魘されてるみたいだから……彼の前で言っちゃ駄目よ」
ああ、それで一度彼の方を伺ったのか……。
それにしても、そんな微妙な悪夢で魘されるなんて、澤村も不憫な人だ。
そうしてひっそりと憐れんでいると、おーい村長さん、と内沢から呼ばれて振り向く。あっ、振り向いちゃった……!
「ちょっとあっちの方に行って人呼んできてくれないかな。俺達商店街組とは別に、村ん中でリサイクルショップやってる奴が居るんだけどさ、誘ったのに来てなくて」
「はあ……」
「挨拶がてら、ねっ! すぐそこだから。多分酒があるって言ったら来ると思う」
「わ、わかりました……」
すぐそこなら自分で行ってくれよと思ったが、仕方ないので言われた通りに従った。リサイクルショップなら、お世話になるかもしれないしね。
ガラス戸をがらりとあけると、いらっしゃい、という声と。
「あ? なんだお前、見ねえ顔だな。……あー、新しい村長さんか。ふーん、わけえな」
田舎のヤンキーのような方が、タバコをふかして新聞を読んでいた。怖い。
「あっあの、内沢さんに呼んでくるように頼まれまして……皆さん私の歓迎会をして下さってて、それに来いって私が言うのもなんなんですが……!」
「……おお」
「おっ、お酒も出てたみたいですよ……!」
無意識のうちに"きをつけ"、の姿勢を取る私に、ボリボリと頭をかいてから。
タバコの煙と一瞬に溜め息を吐き出して。
「ったくアイツら……これで突っぱねたらあんたの面子も立たねえし、ちょっと外で待ってな」
「はっ、ハイ!」
「あとそんなビビんなくてもとって食わねえぞ俺は。いくらカラスでもよ」
にやりと笑いながら奥に引っ込んでいく。
あからさまにビビってすいません。
それから、エプロンを外して店に施錠した烏養と広場に戻ると。
「……!」
私は、今更ながらに全身に電気の走ったような衝撃を受けた。
こっ、この村、カラスばっかか……!!
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