とびだせ!カラスの森

 


電車の中、によによして妙に馴れ馴れしい黒猫からの質問に答えながら、期待に胸を膨らませる。

カラスノ村……どんな所だろう。
村の人たちとうまくやっていけたらいいなあ。

「まもなくカラスノ村ー、カラスノ村です」
「おっ、そろそろお別れか」
「そうですね! じゃあ黒猫さん、私はこれで!」
「嬉しそーだなオイ。……ま、頑張れよ」
「? はい、それじゃあ」

黒猫は最後までによによしていて、しかも最後は妙に意味深だった。
一体なんだったんだ、と駅から出ると。

「あっ、きっ、ききききたっ!」
「女子だ……! 女子だぜノヤっさん」
「女子が増えたな龍……!」
「お前らうるさい!」
「いらっしゃい、新しい村長さん」
「…………はい?」

盛大な拍手、一部からのクラッカーと、沢山の笑顔。
それに付随された、歓迎の言葉を私は理解出来なかった。

「え? うちの村の、新しい村長さん、でしょう?」

キョトンと首を傾げた美人さんにふるふると首を横に振る。
村長? 人違いだ。私はただの一村民だよ。

「ええっ!? おっかしいなあ、僕、この電車で村長さんが来るって連絡を受けたんだけど……」
「武ちゃんしっかり!」
「えーっと……うん、そうだ、とりあえず、先に村民登録をしちゃおう!」
「あっ、ハイ、お願いします……」
「うん、役場はこっちだよ。あっ、僕、村長さんの補佐をさせてもらう秘書の武田です! よろしくね!」
「(私村長じゃないってば……!)」

まったく私をどうしたいんだと思いながら役場までついて行くと、思い出したように言われた。
私、まだ家無い。

踏切の向こうにあるという滝ノ上不動産に行くと。

「家がねえ? おいおいうっかりな村長さんだなー……ちょっと待ってろ」

と、不動産屋の店主らしいお兄さんに言われてしまった。私が悪いのかこれは。あと私村長じゃないです。

「まあ基本的には好きなとこに建てていいから、好きなとこを選べ。行くぞ」
「……滝ノ上さん、その肩に担いでいるのは一体」
「テントと段ボールポストだ。仮設だから安心しろ」
「あっ、よかったです」
「まあ男人口の多い村だからな。女子連中の近所とかがいいんじゃねえか?」

このあたりだけど、と滝ノ上が振り向いたところにはシンプルだけどお洒落な家と、センスの良い可愛い家。

この村の女子レベル高いな……!

なんて、感心していたら。

「んじゃこの辺で」
「私に選択権があったんじゃないんですか!?」

二つの家の間に、テキパキと私の仮設住居が完成されてしまっていた。どういうことなの。

文句を言う間もなく、滝ノ上はとっとと帰ってしまうし、仕方がないので役場で村民登録を済ませた。

「それじゃあ、お仕事についてはまた明日説明させてもらいますね! 今日は村のみんなが歓迎会だと張り切ってましたから、ぜひそちらに顔を出して下さい!」

お疲れ様でした、とにこやかに言った武田にたらりと汗が流れる。

……えっ、私、村長決定……?


 
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