06

 


学生最後の冬休み。
就職したらわかんないし、折角だから満喫しようよなんて言い出したクラスメートに誘われてぶらぶらと二人、目的もなく気の向くままに歩いていた時。

「ん? 虹村、あれなんだろ。すげー人だかり」
「あー? 女子多いな……どーせなんかの撮影とかなんじゃねえ?」
「なーる……ちょっと見て行こ!」
「あっ、ちょっ、待ちやがれ馬鹿!」

異様な程の俊敏さで人だかりの方に駆け出したあいつの後ろ姿を追い掛ける、と。

「あれ、虹村、あの子達」
「……!」

人だかりの出来ていたそこはストバスのコートで。
しかも中では行われている3on3の面子は。

「あーっ! また! 青峰っち!」
「俺に勝とうなんざ10年早えよ」
「もっかい!」
「えー、まだやんの?」
「僕は構わないよ」
「双子座はあまり運勢が良くなかったから何度やっても同じなのだよ」
「ちょっ……僕そろそろ休憩欲しいんですけど……!」

成る程この面子なら、人だかりなんていくらでも出来るし、女子が多い理由もわかる。
全員冬の屋外だというのに半袖で。いったいいつからやっているのか汗もかいて。

よろよろとコートから逃げ出そうと歩いてきた後輩に、タオルを被せてやった。

「風邪ひくぞ」
「え……あ、にじ」
「あれー? 虹村サン? 何でいんの?」
「何で居るんですか、だろうが。お前こそ秋田じゃねえのか」

他の誰よりゆるゆるとした反応を示した巨体は、年末年始は実家に戻って来たのだと言った。京都のやつもそう言うことらしい。

「ていうか虹村サン彼女連れ?」
「違う違う! ただのクラスメートだよ。紫原くん、だよね? はじめまして」
「うん、まあ、よろしく」

まだ自分も同じユニフォームを着ていた頃は、概ねこんなものだった。
だけれど、引退する少し前から、予兆はあった。少しずつ、少しずつ歪んでねじ曲がっていく予兆が。

雨降って地固まる、というやつなのか。

詳しくは知らないけれども、誰もがどうにかうまいこと折り合いをつけたらしかった。

それを懐かしい、なんて思う間もなく。

「っ!?」
「ねー、虹村サンもどっスか? 黒子っちバテちゃったし!」
「あぁ?」
「そうだな、どうですか虹村さん」
「……俺もう今やってねえんだけど」
「確かにブランクはあると思いますが……俺達とやるのが怖いですか」
「……上等だ緑間ァ、その挑発乗ってやる。その前に黄瀬はデコ出せ」
「なんで!?」
「先輩にボールぶつけた罰に決まってんだろが早くしろ」
「あーあ、馬鹿だなお前。虹村サンのデコピンすげーいてえのに」

手加減せずにモデルのデコを指先で弾いて、それから脱いだジャケットをクラスメートに放り投げた。

「うわっ」
「ちょっと持ってろ」
「はいはい」

あまりバスケに向いた格好でもないけど、体力も技術も落ちた上に全盛期なこの後輩達相手に渡り合えるとも思えないけど。

妙に湧き上がる高揚感に任せて踏み出したコートの外で、クラスメートが妙に緩んだ顔をしていた。


 
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