05

 


「なんっかお前ほんとへらへらした面してんなあオイ。悩み無さそうだし楽しそうで羨ましいこった」
「いひゃひゃ、いひゃい、悩みくらいありまふし」

見慣れない制服の、とある男女の会話に思わず足を止めた。
さすがの僕も、驚いた。まさか、まさか。

「なにすんのよ虹村のばか! 片方だけほっぺた赤くなった!」
「もう片方も引っ張るか?」
「ふざけんなし!」
「……虹村さん?」
「!」
「?」

振り向いた顔は、知っているよりも随分大人びたように思う。だけど振り向いたということは、あの虹村修造本人なのだろう。

しばし居心地の悪そうな顔をして、それから頭をかきむしりながらよう、元気だったか、と在り来たりすぎる台詞を吐いた。

「はい……虹村さんも、お元気そうで」
「まあな」
「? 虹村、知り合い?」
「中学の後輩」
「えーと……あ、赤司くん?」
「ええ、そうです」
「わーすっげーエンカウント率」

虹村は、彼女(?)に僕達の事を話しているらしかった。
指折りなにかを呟いて名前を言い当てた後、はじめまして、こいつのクラスメートですとにこりと笑った。

「エンカウント率ってなに」
「最近私虹村の後輩くん達に会ったよ。後はねー、紫原くんと灰崎くんに会ってないかな」
「アァ? キセキに殆ど会ってんじゃねえかなんだそれ。あと灰崎には会わなくていいからマジで」
「は? うん……いや、私もびっくりだよ! みーんな虹村の名前に反応したんだもん!」
「は?」
「黄瀬くんはねえ、いつものバイト後の電話の後で、青峰くんと黒子くんと桃井さんはストバスしてるときに会って、あああれは私が声掛けたかな。で、緑間くんはほら、こないだの生徒手帳!」

彼女の言う分には、彼らはみんな虹村という名前を聞いた途端顔色を変えて彼女を捕まえたらしい。
誰も彼もまったく素直なやつらだと思ったが、他人の事は言えたもんじゃない。

「お前なんでそんなふらふらしてんの」
「いやいつもの行動圏内ですけど」
「ろくでもねえ事喋ってねえだろな」
「虹村がろくでもねえ事してなければね」
「言いやがったなこのやろ」
「いって! いってえ!!」

相変わらず容赦ないデコピンを彼女にお見舞いしたのを見て、はたと思う。
なにやら勢いに圧されていたが、一番最初の疑問を思い出した。

「あの、何故虹村さんはここに?」
「あ? 修学旅行だけど」
「……この当たりは全然観光地じゃありませんが」
「いやー、下調べだけで観光地飽きてよ、そうじゃねえとこ見回ろうと思って班抜け出したんだけどな。班長にバレて今戻るとこなんだわ」
「班長にバレてってかそろそろ集合時間だからね」

けたけた笑う彼女の言葉にまあなと気の無い返事を重ねたが、腕時計をチラリと確認したあたり本当らしい。
それなら、引き留めては悪いだろう。

「それじゃあ虹村さん、また」
「……おう。またな」
「赤司くんバイバーイ」

へらりと笑った彼女と並んで小走りで遠ざかる背中を見送って、訊きたかったことの答えを貰ったような気がした。


 
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