03
取り損ねたボールが転がって、待ってましたとばかりに2号がそれを追いかけていってしまって。
慌てて追い掛けたら、ボールを持った女の人に2号がじゃれついていた。
「ふふふ、君のボールなの?」
「わんっ」
「……あの、すみません。そのボールと犬、うちのです」
「お」
なるべく驚かせないように声を掛けると、ふと顔を上げた彼女がにっと笑って。
「あらま、そっくりな飼い主さんだこと! はい、ボールどうぞ」
「ありがとうございます」
「テツくーん、ボールあった?」
「犬も回収しろよ。とっととコート戻ろうぜ」
待ちきれなかったのか、様子を見にきた桃井と青峰にボールを小さく掲げて見せて、2号を抱えた。
それじゃあありがとうございましたと頭を下げようとすると、彼女は僕の後ろ、あの二人を見ていて。
「……ガングロベリーショートの男の子と、スタイルのいいロングヘアの女の子……」
「あ、あの?」
「……青峰くん、と、桃井さん?」
「えっ?」
「あ? 誰だあんた」
驚いた顔の桃井と、じろりと訝しむ青峰には構うことなく。
ゆるりとこちらを向いた彼女は、僕を見てふと口角を緩めた。
「じゃあ、一緒にいる薄い君は……黒子くん、だね?」
「……はい。あの僕達の事を、誰から?」
彼女の確かめるような口振りは、誰かから与えられただけの情報を元にしていた。
三人共通の知り合いだとすれば、バスケに関連した誰かだろうが一体、と問い掛ければ。
「虹村だよ。虹村修造」
へらりと笑った彼女が発した名前は、予想すらしていなかったものだった。
「そうですか……虹村先輩と同じ高校の方なんですね」
「うん。聞けば色々話してくれてねえ。青峰くんは馬鹿すぎて手が掛かるヤツだったとか黒子くんはびっくりするほど下手だったとか」
「……それ殆ど悪口だろ」
「はは、先輩なりの褒め言葉ってヤツだよ、きっと。桃井さんは優秀なマネージャーだったっていっつも言ってたよ」
「わ、ほんとですか? ふふっ」
結局ボールは2号に預け、コート横のベンチに彼女と座って、少しだけ話をした。
今、虹村はどうしているのか。
そんな話を。
「こないだはね、黄瀬くんに会ったよ」
「黄瀬くんにですか?」
「うん、家の近くで捕まったんだ。本当、あいつは随分後輩くん達に慕われてたんだね」
同じくらい、君達が可愛くて仕方なかったみたいだけどね、と。彼女はへらりと笑ってみせた。
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