02
「うん、うん。えーうるさいなあ、わかってるし!」
けらけらと大声で電話しながら歩いてくる女が居た。
俺はロードワークの帰りで、あたりはもう暗い。人通りも無いし、大声を出したくなる気持ちも分かるが、近所迷惑も考えろよなあなんて思いながら、すれ違いざま。
「あんたほんと失礼すぎ! もう家着くから切るよ、また明日ね。おやすみ虹村」
思わず、その女の腕を引いた。
「うおっ!?」
「あ……え、と」
「いきなりなにすん…………あ? キセリョ?」
「あー……そッス」
やってしまったなと思いながらも、彼女は騒ぎもせずただただ不思議そうに首を傾げて、それからハッとした顔になって。
「……虹村の事が、気になるの?」
にこりと笑ってなんでも無さそうにそう言った。
ばつが悪くて、でも素直に小さく頷くと、じゃあお姉さんとちょっと話そうかと近くの公園に向かってすたすた歩いていく。
慌てて追い掛けたら自販機の前にいて、小さいサイズのスポドリを投げて寄越した。
「あの、お金」
「いらないよ。そのかわりその小さいのでガマンしてね」
「……ありがとう、ございます」
「いいえ。さて、なにから話そう。なにが聞きたい?」
「……虹村サンは、今、バスケしてんすか?」
多分、一番聞きたいことだった。
実感するには少なすぎた思い出も、かき集めれば光っていた。先輩後輩という関係性を教えてくれた最初の人。
俺達の才能の開花につれて主将の任から外れ、スタメンでも無くなった。
けれど。
「……やってないよ。ぜーんぜん。やる気もないみたいね。今放課後はバイトしてるよ」
「……そう、ッスか」
ショックだったけれど、どうしてか驚きはしなかった。
「ええと、あなたは……?」
「私? ただの虹村のクラスメート! でも二年連続だから仲は良いと思うよー。あいつああ見えて優しいからさあ、私がバイトでこのくらい遅くなるときは帰り道に電話に付き合ってくれんの!」
「ふうん……」
ころころとよく表情の変わる人だった。
それ以上どんな話をすればいいかもわからなくて、彼女の缶コーヒーも空になって。
空き缶を捨てて、公園を出て行く足をぴたりと止めて振り向いた。
「黄瀬くん」
「ぅえ、はいっ?」
「多分、君が思ってる以上に、君達の事思ってるよ!」
なんて言って、にやっと笑った。
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